2017年02月24日

会社代表のほか、別会社からも給与を得る46歳男子原告の休業損害に対して賃金センサス学歴計平均賃金を基礎収入として認定した事案~判例ニュース

 【さいたま地裁平成27年2月25日判決】

基礎収入につき、原告は、別会社に勤務して199万円の収入を得ていたことが認められ、本件事故当時も現実に稼働していたこと自体は認められることなどを勘案すると、基礎収入として、平成24年賃金センサス男子学歴計年齢別平均年収662万0300円を365日で除した日額1万8137円を認めるのが相当であるとした。

休業期間については、原告の症状、治療経過等の事実のほか、原告の業務内容等を総合考慮し、事故翌日の平成24年3月22日から同年6月21日までの92日間は100%、同月22日から同年9月21日までの92日間は60%、同月22日から平成25年4月17日までの208日間は30%の休業を要したものと認めるのが相当であると判示した。

 

[コメント]

原告は、会社代表として月額60万円の報酬を得ていたとして証拠を提出しましたが、裁判所は、その証拠は原告ないしその妻が本件事故後に作成したものであること、会社の資金繰りが厳しかったことを理由に原告が現実に月額60万円の報酬を得ていたというのはいささか不自然として月額60万円を基礎収入にすることは認めませんでした。しかし、別会社の基礎収入と現実の稼働状況を勘案して賃金センサス平均賃金を基礎収入としました。また、算定にあたっては、事故日から徐々に労働能力が回復するであろうことを考慮し逓減方式を採用しました。

 

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2017年01月25日

二輪車転倒・衝突事故につき外傷後ストレス障害を認め5年間5%の労働能力喪失で逸失利益を認定した事案~判例ニュース

 【さいたま地裁平成27年12月25日判決】

46歳男子会社代表の原告は、自動二輪車を運転して進行中、一時停止道路から進入してきた被告運転の普通乗用車を避けようとして転倒、衝突し、頚椎捻挫、全身打撲、顔面擦過傷等の傷害を負い、外傷性ストレス障害等の14級9号に相当する精神障害が残存したとして訴えを提起した。

裁判所は、「本件事故の際に被告車両の車輪が原告の頭部を踏み越えた事実自体がなくとも、原告が、被告車両の車輪の経路の間近で転倒していて、ヘルメットが被告車両の左後輪の前に挟まりながらひきずられて破損する『バリバリバリバリッ』という音を聞いたことからすると、少なくとも原告の認識としては、本件事故は、原告の頭部を被告車両の車輪に踏まれる危険を伴った、生命に関わる重大な事故といえ、外傷後ストレス障害の治療期間についても相当因果関係を認める。」と認定し、賃金センサス男子学歴計同年齢平均を基礎収入に、5年間5%の労働能力喪失で後遺障害逸失利益を認めた。

 

[コメント]

医師に「外傷性ストレス障害」いわゆるPTSDと診断された場合であっても、必ずしも賠償の対象となる後遺障害として認定されるわけではありません。賠償実務上、PTSDが後遺障害として認められるには高いハードルがあり、多くの裁判例がPTSDを否定しています。医師の診断と裁判所の判断とに乖離があるのは、医師は患者が事故後の精神状態の不安定を訴えれば治療の必要性があるとしてPTSDと診断する、つまり自覚症状のみで診断してしまう傾向があるのに対し、裁判では事故発生の状況と傷害の内容・程度などを総合的に考慮し、事故との因果関係を十分に斟酌するからであると思われます。本判決も「生命に関わる重大な事故」と認定しているように、裁判においては、とくに死に比肩できる外傷体験があったか、当該事故によって精神的変調をきたしてもおかしくないほど事故が重大で凄惨であったかという事故起因性が重視されるといえます。

 

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2016年12月27日

51歳男子勤務医師につき75歳まで稼働の蓋然性を認め逸失利益を認定した事案~判例ニュース

 【京都地裁平成27年3月19日判決】

51歳男子勤務医師の原告は横断歩道を自転車で横断中、左折してきた被告運転の乗用車に衝突されて転倒。第一腰椎破裂骨折の傷害を負った。

裁判所は、原告には「本件事故による休業期間を除き、明らかな減収はないものの、原告の後遺障害は、脊柱の変形による腰痛等の神経症状であることから、麻酔医師としての労働能力に与える影響は否めず、現時点においては原告の努力等によって減収は生じてないとしても、将来的に不利益を被るおそれは否定できない」とし、「原告が麻酔科医師であるほか、心肺蘇生法事業を行っていることを考慮すれば少なくとも75歳まで稼働する蓋然性は高い」と認め、症状固定から23年にわたり9年の労働能力を喪失したとして、後遺障害逸失利益を認めました。

 

[コメント]

逸失利益が認められる労働能力喪失期間は、症状固定日から67歳までとするのが原則です。これは、一般的な定年となる年齢を考慮し、この年までは稼働可能であろうという価値判断のもと定められたものと思われます。したがって、定年のない職業など67歳を超えて就労する蓋然性のある者についてはこの限りでありません。

労働能力喪失期間をいつまでとするかは、職種、地位、健康状態、能力等に個別に判断して決めるのが裁判実務です。

本件では、被害者の職業が定年のない医師であり、事業も行っていることを理由に、75歳まで稼働する蓋然性が高いとし、症状固定日から75歳までの逸失利益を認めました。

 

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2016年11月23日

軽微衝突により後遺障害の残存を否認した事案~判例ニュース

 【熊本地裁人吉支部平成28年1月27日判決】(自保1969108)

 

店舗駐車場内で後退車両に接触され受傷した原告は、残存する腰の疼痛は、既往症である脊柱管狭窄症と本件事故による傷害に起因するというべきであり、1213号所定の「局部に頑固な神経症状をのこすもの」に該当すると主張しました。

しかし、裁判所は、「本件事故は、接触こそ伴ったものの、その衝撃の程度は(省略)ごく軽微なものであったと証拠上見ざるを得ない。かかる事故態様からしても、原告が指摘するところの多様で頑強な症状が発症し、残存したとはにわかに認め難い」として、後遺障害の残存を否定しました。

 

[コメント]

骨折・脱臼などの他覚的所見がない後遺症がどの後遺障害等級に該当するか否かを判断するに際しては、残存する自覚症状のみでなく、事故態様、診断・検査結果、症状経過などの諸事情が総合的に考慮されます。他覚的所見がなければ、被害者が訴える自覚症状が詐病でないかを判断することが難しいため、裁判では事故態様、とくに衝撃の大きさを重視しているものが多いように思われます。つまり、事故後に重い後遺症が残存し不自由な身体になったとしても、事故態様が軽微であれば、事故がその重い症状の発生原因とは考えがたいとして後遺障害の残存を否定される可能性が高くなります。

注意していただきたいのは、後遺障害の残存を否定されるだけでなく、治療内容や治療期間の必要性・相当性についても否定される可能性があるということです。治療内容や治療期間が否定されると、治療費の賠償が受けられなくなる、もしくは減額されることになりかねません。

軽微事故だからといって怪我が小さく済むと一概に言うことはできませんが、事故態様の軽微性が相手方との交渉や裁判において争点となり、不利な事情となることは間違いないといえるでしょう。

 

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2016年10月25日

2歳男児の駐車場での死亡事故につき被害者側の過失は1割と認定した事案~判例ニュース

 【福岡地裁平成27年5月19日判決】(自保1947号120頁)

 

2歳男児Aが店舗駐車場内の走行スペースにパンを食べながら座り込んでいたところ、被告運転の乗用車に轢過されて死亡したという事故につき、裁判所は、被告は、「被告車両に乗り込み、これを進行させるまでの過程において、周囲に幼児の有無を確認した上で、発進進行までの間に幼児が視覚に入り込んでしまう可能性を念頭に置き、その有無・動静に注意しておく義務があるところ、被告は、これを怠ったまま漫然と被告車両を発進させた過失があると認められる。他方、被害者側であるB(母親)においても、事故の発生防止を車両運転者の注意のみに委ねるのではなく亡Aの動静に注意しておく義務があったと認められる」として、過失割合は、被告が9割、原告Bが1割と認定しました。

 

コメント: 本件のような、親が目を離したすきに幼い子供が交通事故に巻き込まれるという痛ましい事故は後を絶ちません。運転者と親のいずれにも取り返しのつかない重大な落ち度があったといえますが、裁判所は、幼児等のいわゆる交通弱者を含む往来の多い駐車場内での事故であったこと、自動車の運転には大きな危険を内包することを理由に、加害者に9割の過失があるとしました。     

本件の被告車両には、衝突防止ソナーが搭載されていましたが、今回の悲惨な死亡事故は発生しました。私たち運転者は、危険な車を運転する以上高い注意義務を負うということを常日頃から自覚し、衝突防止ソナーがあると否とを問わず、十分な安全確認を為さなければなりません。

 

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