2016年12月27日

51歳男子勤務医師につき75歳まで稼働の蓋然性を認め逸失利益を認定した事案~判例ニュース

 【京都地裁平成27年3月19日判決】

51歳男子勤務医師の原告は横断歩道を自転車で横断中、左折してきた被告運転の乗用車に衝突されて転倒。第一腰椎破裂骨折の傷害を負った。

裁判所は、原告には「本件事故による休業期間を除き、明らかな減収はないものの、原告の後遺障害は、脊柱の変形による腰痛等の神経症状であることから、麻酔医師としての労働能力に与える影響は否めず、現時点においては原告の努力等によって減収は生じてないとしても、将来的に不利益を被るおそれは否定できない」とし、「原告が麻酔科医師であるほか、心肺蘇生法事業を行っていることを考慮すれば少なくとも75歳まで稼働する蓋然性は高い」と認め、症状固定から23年にわたり9年の労働能力を喪失したとして、後遺障害逸失利益を認めました。

 

[コメント]

逸失利益が認められる労働能力喪失期間は、症状固定日から67歳までとするのが原則です。これは、一般的な定年となる年齢を考慮し、この年までは稼働可能であろうという価値判断のもと定められたものと思われます。したがって、定年のない職業など67歳を超えて就労する蓋然性のある者についてはこの限りでありません。

労働能力喪失期間をいつまでとするかは、職種、地位、健康状態、能力等に個別に判断して決めるのが裁判実務です。

本件では、被害者の職業が定年のない医師であり、事業も行っていることを理由に、75歳まで稼働する蓋然性が高いとし、症状固定日から75歳までの逸失利益を認めました。

 

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2016年11月23日

軽微衝突により後遺障害の残存を否認した事案~判例ニュース

 【熊本地裁人吉支部平成28年1月27日判決】(自保1969108)

 

店舗駐車場内で後退車両に接触され受傷した原告は、残存する腰の疼痛は、既往症である脊柱管狭窄症と本件事故による傷害に起因するというべきであり、1213号所定の「局部に頑固な神経症状をのこすもの」に該当すると主張しました。

しかし、裁判所は、「本件事故は、接触こそ伴ったものの、その衝撃の程度は(省略)ごく軽微なものであったと証拠上見ざるを得ない。かかる事故態様からしても、原告が指摘するところの多様で頑強な症状が発症し、残存したとはにわかに認め難い」として、後遺障害の残存を否定しました。

 

[コメント]

骨折・脱臼などの他覚的所見がない後遺症がどの後遺障害等級に該当するか否かを判断するに際しては、残存する自覚症状のみでなく、事故態様、診断・検査結果、症状経過などの諸事情が総合的に考慮されます。他覚的所見がなければ、被害者が訴える自覚症状が詐病でないかを判断することが難しいため、裁判では事故態様、とくに衝撃の大きさを重視しているものが多いように思われます。つまり、事故後に重い後遺症が残存し不自由な身体になったとしても、事故態様が軽微であれば、事故がその重い症状の発生原因とは考えがたいとして後遺障害の残存を否定される可能性が高くなります。

注意していただきたいのは、後遺障害の残存を否定されるだけでなく、治療内容や治療期間の必要性・相当性についても否定される可能性があるということです。治療内容や治療期間が否定されると、治療費の賠償が受けられなくなる、もしくは減額されることになりかねません。

軽微事故だからといって怪我が小さく済むと一概に言うことはできませんが、事故態様の軽微性が相手方との交渉や裁判において争点となり、不利な事情となることは間違いないといえるでしょう。

 

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2016年10月25日

2歳男児の駐車場での死亡事故につき被害者側の過失は1割と認定した事案~判例ニュース

 【福岡地裁平成27年5月19日判決】(自保1947号120頁)

 

2歳男児Aが店舗駐車場内の走行スペースにパンを食べながら座り込んでいたところ、被告運転の乗用車に轢過されて死亡したという事故につき、裁判所は、被告は、「被告車両に乗り込み、これを進行させるまでの過程において、周囲に幼児の有無を確認した上で、発進進行までの間に幼児が視覚に入り込んでしまう可能性を念頭に置き、その有無・動静に注意しておく義務があるところ、被告は、これを怠ったまま漫然と被告車両を発進させた過失があると認められる。他方、被害者側であるB(母親)においても、事故の発生防止を車両運転者の注意のみに委ねるのではなく亡Aの動静に注意しておく義務があったと認められる」として、過失割合は、被告が9割、原告Bが1割と認定しました。

 

コメント: 本件のような、親が目を離したすきに幼い子供が交通事故に巻き込まれるという痛ましい事故は後を絶ちません。運転者と親のいずれにも取り返しのつかない重大な落ち度があったといえますが、裁判所は、幼児等のいわゆる交通弱者を含む往来の多い駐車場内での事故であったこと、自動車の運転には大きな危険を内包することを理由に、加害者に9割の過失があるとしました。     

本件の被告車両には、衝突防止ソナーが搭載されていましたが、今回の悲惨な死亡事故は発生しました。私たち運転者は、危険な車を運転する以上高い注意義務を負うということを常日頃から自覚し、衝突防止ソナーがあると否とを問わず、十分な安全確認を為さなければなりません。

 

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2016年09月19日

交通事故で右足関節外側側副靭帯損傷、頚椎捻挫、左前胸部挫傷、左膝部挫創、両膝部挫傷等の傷害を負った30代女性の事案~ご依頼者の声

 

 

ご依頼者の声(アンケート用紙)←クリック

 

ご依頼者女性は、たくさんの傷害を負ったにもかかわらず、仕事を休んだら職場に迷惑がかかる。首になっても困るとの理由で、事故後も痛みを我慢して出勤したため、十分に通院治療を受けることができませんでした。事故後から治療を中止するまでの治療期間は143日間でしたが、うち通院できたのはわずか14日で、保険会社から提示されたのは14日(通院日数)×2×4200ご依頼者の声2(東 富士男)円(日額)=11万7600円でした。この額で示談をしようと思っていたところ、弁護士費用特約に加入されていたため、示談前に当事務所にご相談をいただきました。

当事務所が、傷害の内容・程度、治療の必要性、通院ができなかった事情等を主張して相手方保険会社と交渉を行ったところ、慰謝料を30万円以上増額させることができました。弁護士費用特約に入られていたため、弁護士費用を一切手出しする必要もなく、相談してよかったと大変喜んでいただけました。

 

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2016年08月25日

歯科開業医の休業損害について判断した事案~判例ニュース

 【東京地裁平成27年11月25日判決】(自保1966号121頁)

 

[事案の概要]

車の運転中に乗用車に追突された男子歯科開業医のXは、頚椎捻挫の傷害を負ったために、事故後の7日間は全日休業とし、2日間は短時間診療とすることを余儀なくされた。また、その後50日間は1時間の短縮営業を行った。

 

[判決の要旨]

「交通事故に係る事業者の休業損害を算定するには、基礎収入として事故前の申告所得額に固定費用を加算した金額を採用し、営業日数で割って1営業日当たりの所得を算出し、交通事故により休業した状況を、営業日数あるいはその休業割合に応じて換算するなどして、1営業日当たりの所得に応じて算出するのが相当である。」「Xが全日休業とした7日間は、前記所得の100%、短時間診療に止まった2日間はその50%、概ね1時間が短縮された50日間はその15%の休業損害が発生したと認めるのが相当である。」

 

 

コメント:事業所得者(商工業者、農林・水産業者、自由業者などの個人事業主)の休業損害は、現実の収入減があった場合に認められるとされています。何をもって「現実の収入減」とするかについては事案ごとに判断されることになりますが、事業所得者の場合、事故による「現実の収入減」を明確に立証し難く、休業損害の算定が困難な場合が多いのが現状です。この判決は、次のように、1営業日当たりの所得に休業日数ないし休業割合を乗じて得た額を休業損害とすると判断しました。

 

(前年度の申告所得+固定経費)÷年間営業日数×休業日数=休業損害

       └1営業日当たりの所得

 

そして、全日休業の場合は1営業日当たりの所得の100%を休業損害と認定し、8時間営業のうち1時間を短縮した場合は、1営業日当たりの所得の8分の1、すなわち15%を休業損害と認定しました。休業期間中どの程度労働能力を喪失していたか、事故前後の収入の差額がどうであったか等については踏み込んだ判断をしておらず、非常にシンプルな算定方法として参考になります。

 

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