2019年05月21日

14歳女子の自賠責12級左下腿瘢痕が労働能力に影響はないと後遺障害逸失利益を否認し後遺障害慰謝料400万円を認めた事案

【東京地裁平成30914日判決】(自保203568頁)

〔事案の概要〕

14級女子中学生の原告は、歩道を歩行中、歩道を彫り上げた被告運転の貨物車に衝突、轢過され、骨盤骨折、両下腿デグロービング損傷等の傷害を負い、自賠責12級左下腿瘢痕の認定を受けた

〔判決の要旨〕

「本件事故による原告の左肩位の瘢痕は、大腿部から腓腹部までの広範囲に及ぶものであること、上記瘢痕の症状固定時及びその後の色や形状からすると、上記瘢痕は、丈の長くないスカート等を着用した場合、人目につくことがあるものということができる。また、本件事故による原告の右下腿の瘢痕は、膝上の部分のもので、その大きさも考慮すると、左下腿の瘢痕と同様に人目につくことがあるものということができるし、上唇の線状根は、その大きさ、形状からすると、コミュニケーションの際に、人目につくことがある」が、「左下腿及び右下腿の上記瘢痕は、その位置からすると、コミュニケーションの際に直ちに相手の視線に入るものとは言えないし、着用する衣服によっては必ずしも人目につくものとはいえない。また、原告が、本件事故当時、俳優やモデル等、仕事の性質上、下肢を露出することを要し、かつ、下肢を含む容姿が重視される職業に係る活動をしたり、オーディションを受けるなどそのような職業につくための準備活動をしていた様子はうかがわれない。これらの事情に照らすと、原告の性別、年齢を考慮しても、上記瘢痕が原告の労働能力に直接的な影響を及ぼすと認めることはできない。」、「原告の性別、年齢も考慮すると、醜状障害による精神的な影響は否定できないところ、このような事情については、慰謝料の算定において考慮する」として、後遺障害逸失利益を否認した。

そして、上記瘢痕、線状根は人目につくことがあるものであり、それらの瘢が目立たないような衣服を着用することを余儀なくされることがあると考えられること、原告は、症状固定時、16歳の高校2年生であったこと、その性別等を考慮すると、周囲の視線が気になるなどして、対人関係や対外的な活動に消極的になるなど、間接的に労働に影響を及ぼすおそれがある」として、「後遺障害慰謝料は、400万円と認める」とした。

 

[コメント]

醜状障害が労働能力に影響を与えるかについて争われた裁判例は多数あります。

同じ下肢の醜状障害であってもふくらはぎなど露出することの多い部位の醜状障害の場合は、就労に影響するとして逸失利益が認められやすく、スカートなどで隠せるといった露出可能性の低い部位の醜状障害の場合は逸失利益が否定されやすい傾向にあります。

また、被害者が就労前のこども・若年者の場合は、既に職業・対外的活動が決まっている場合よりも、より将来、醜状障害が職業の選択に与える影響が少なくないとして考慮される可能性が高いといえるでしょう。

個人的には、原告が職業選択前の高校生で、裁判所としても衣服の制約や、対人関係・対外的な活動の消極化による間接的な労働への影響を認定するのであれば、職業選択の自由の制限、醜状障害が将来就労に影響を及ぼす可能性を考慮して後遺障害逸失利益を認めてもよかったのではないかと思います。

この裁判例は、最終的に、慰謝料でバランスをとったものと考えられます。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
弁護士法人 あずま綜合法律事務所
http://www.jiko-fukuoka.jp/
住所:福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号
上ノ橋ビル3階
TEL:092-711-1826
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

PageTop