2019年12月23日

傷害を裏付ける明確な他覚的所見はなく車両の損傷状況も重大なものとは認められない等からX主張の傷害を否認し請求を棄却した事案

【東京高裁平成31313日判決】(自保205154頁)

 

〔事案の概要〕

男子会社員のXは、普通乗用車を運転して交差点手前で停止中、左方の駐車場から後退してきたY運転の普通乗用車に衝突され、頚椎捻挫、右肩関節挫傷及び腰部挫傷の傷害を負い115日実通院し、人身損害を残したとして、既払金約15万円を控除し約212万円を求めて訴えを提起した。

 

〔判決の要旨〕

Xが本件事故によって頚椎捻挫等の傷害を負ったとは認められず、その請求は棄却されるべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

① カルテ上、理学的所見又は神経学的所見の記載はほとんどなく、Xが訴える自覚症状をそのまま記載したとみられるもの(項部痛、左項部痛、右肩痛、右上腕痛、腰痛)がほとんどであることが認められ、本件事故によってXが頚椎捻挫、右肩関節挫傷又は腰部挫傷の傷害を負ったことを裏付ける明確な他覚的所見はない

② Xは、本件事故による衝突等に関し、「突然左後方から衝撃があり、Xの身体は右に飛ばされ、反動で戻った際、ヘッドレストに頭部をぶつけた」等と述べるが、後退してきたY車の右後部角が停止していたX車の左側面部に衝突したという本件事故の態様からすると、Xの上記供述内容は力学的に不合理である。また、本件事故によるX車及びY車の損傷の状況を検討しても、本件事故について、必然的にX車の運転者の受傷をもらたす程に重大なものであったとまでは認められないことを併せ考えれば、本件事故によってXが頚椎捻挫、右肩関節挫傷又は腰部挫傷の傷害を負ったとは認められない。

③ XがC整骨院で右肩の治療を受けていたというのであれば、C整骨院に約半年間、90回通院していながら、通院証明書及び施術証明書・施術費明細書に1度も右肩に係る傷病名が記載されていないのは不自然であり、本件事故後の症状に関するXの供述は採用できない

 

[コメント]

交通事故の被害者は、加害者に対し、事故で被った損害の賠償を請求することができます。

もっとも、被害者の言い分通りに全ての損害の賠償が認められるわけではありません。

交通事故による損害として賠償を受けることができるのは、事故との因果関係が認められ、必要かつ相当な範囲の損害に限られます。

人身事故の裁判では、当該事故の態様が本当に被害者の傷害をもたらす程に重大であったか、という点が最重視される傾向にあると思われます。

「痛み」は、目に見えるものでなく主観的なものであるため本人の自覚症状の訴えのみを採用するのが難しい一方、事故の態様や車両の損傷からはある程度客観的に衝撃の大きさや力学的作用を判断することが可能であるからでしょう。

とはいえ、自覚症状が全く裁判で考慮されないわけではありません。自覚症状と受傷機序に矛盾はないか、診断書・カルテの記載との整合性はあるか、事故後の自覚症状の訴えに一貫性はあるかなどを総合的に判断し、自覚症状の訴えに信用性が認められれば証拠の一つとして採用され得るのです。

今回の事案では、被害者の自覚症状と受傷機序とに矛盾があり、また、訴える症状が整骨院の施術証明書・施術費明細書に記載がなかったことから、被害者の供述に信用性が認められなかったことが、請求が棄却されることになった大きな要因となったものと考えられます。

 

人身事故被害にあった方は、ぜひ交通事故案件の経験豊富なあずま綜合法律事務所にご相談ください。

 

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2019年12月04日

夜間、信号のない交差点での優先道路進入12歳児自転車と乗用車の出合頭衝突で無灯火自転車に5割の過失を認定した事案

【神戸地裁平成31327日判決】(自保2050101頁)

 

〔事案の概要〕

12歳男子Xは、ヘルメットを着用せず、無灯火のまま自転車を運転して下り坂を本件交差点に向かって下り、徐行とはいえない速度で本件交差点に進入した、被告は、一定程度超える速度で南北道路を進行していたところ、やや左前方約20メートルの地点(衝突地点から約16.4メートル手前の地点)において本件交差点に進入しようとするXの存在に気付き、急ブレーキをかけるとともにハンドルを右に切って衝突を回避しようとしたが間に合わず、被告車の前部左側がX及び本件自転車に衝突した。その結果、Xは脳挫傷、遷延性意識障害、左肺気胸の傷害を負った。

 

〔判決の要旨〕

Xは、優先道路である南北道路を通行する被告車の進行妨害をしてはならず、また、本件交差点に進入する際に徐行しなければならなかったにもかかわらず、これを怠って徐行等することなく本件交差点に進入した過失が認められる」とし、他方、「被告には前方不注視、交差点進入の際の安全運転義務違反は認められる」として、「本件事故発生時に夜間で暗く、Xが前消灯を点灯させた被告車を発見することは容易であったのに対し、本件自転車は無灯火であり、被告がXを発見することは困難であったこと、他方で、Xは本件事故当時12歳でその判断能力や身体能力が未熟であったこと、被告が制限速度を一定程度超過する速度で走行していたことなどを総合考慮すると、本件事故の過失割合はX50%、被告50%と認める」とX自転車に5割の過失を認定した。

 

[コメント]

自転車は、自動車と比べると交通弱者であることから、自動車側が優先道路であったとしても信号のない交差点で自動車と自転車とが出合い頭に衝突した場合の基本過失割合は四輪車が60%、自転車が40%となります。

しかし、本件は夜間に自転車が無灯火であることから被告がXを発見することは困難であったこと等に鑑み、自転車側に不利に10%の過失修正が行われました。

自転車は車両という意識が低いのか、夜間無灯火の自転車をみかけることも少なくありませんが、道交法上自転車も車両であり、夜間(日没時から日出時まで)の無灯火は道交法違反となります(道交法52条)。

夜間の無灯火走行は、被害者だけでなく加害者にもなり得る大変危険な行為です。

事故を防ぐためにも暗くなったら早めの灯火を心がけましょう。

 

 

 

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2019年10月03日

路肩駐車中に被告普通貨物車に追突された男子原告の左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷等との因果関係を認め症状固定日を1年6ヶ月後と認定した事案

【大阪地裁平成31124日判決】(自保204675頁)

 

〔事案の概要〕

男子原告は、平成2812日、乗用車を運転して路肩に停車中、被告運転の普通貨物車に追突され、左膝内側半月板損傷、左膝膝蓋骨軟骨損傷等の傷害を負い、約16ヶ月通院したとして、既払い金220002円を控除し1793907円を求めて訴えを提起した。

被告は、原告は、平成29321日、C病院において左膝内半月板損傷の診断を受けているが、この診断は7ヶ月に及ぶB病院への通院を終了した平成2882日から7ヶ月以上も経過した時期に突然されたものである。そのため、左膝内半月板損傷が本件事故によるものとは到底考えられない。原告は、本件事故当日の平成2812日、Bレントゲン検査を受けた結果、骨折は認められず、同年14日の診断においても特に異常なしとされている。そのため、診断書上の傷病名も左膝関節打撲のみである。編国のB病院への通院頻度は、月に1回か2回にすぎず、処置は沈痛消炎剤の処方のみである。といった事情は、原告が本件事故により左膝内半月板損傷の傷害を負っていないからにほかならないとして保険事故と左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷等との因果関係を争った。

 

〔判決の要旨〕

「原告に発症した左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷と本件事故との相当因果関係の有無について検討するに、2トントラックである被告車に追突されたことで、原告車のバンパーやクォーターパネルが損傷を受けたことからすると、本件事故の衝撃は決して小さいものとは評価できないこと、本件事故により、原告は左膝をダッシュボードにぶつけたこと、原告が本件事故当日から左膝の痛みを一貫して訴えていたこと、平成28年8月2日時点では、左膝関節痛については局所に頑固な疼痛が残存している状態であり、左膝については可動域制限が残存し、正座ができず、1時間の立位が困難であり、走ることもできない状態であり、同日時点の原告の症状は軽症とはいい難い状態であったことなどの事情は、原告に発症した左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷と本件事故との相当因果関係を推認させる事情となる」とし、「C病院でMRI検査が行われるまでの間、原告において、左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷を発症する原因となる具体的な出来事がないことに照らすと、原告は、本件事故により左膝打撲のみではなく、左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷を発症したと認められ、症状固定日は、C病院の最終通院日である平成29711日とする」と本件事故と左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷との因果関係を認め、症状固定日を約16ヶ月ごと認定した。

 

[コメント]

交通事故で怪我をした場合、ほとんどのケースでX-P(レントゲン)検査が施行されます。しかし、X-P検査は骨折の有無の判断には有用ですが、腱損傷等判断できない所見もたくさんあります。左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷もその一つです。本件では、受傷当初にB病院で受けたX-P検査で骨には異常がなく左膝関節打撲と診断され、それを前提にB病院での治療がなされた後、一度は治療となってしまいました。その後、C病院でMRI検査を受けた結果、左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷という所見が認められましたが、事故から7か月以上も経った時点でなされたものであったことから、保険会社はC病院での診断結果と治療を争う姿勢をみせたわけです。

もし、受傷当初にMRI検査を受け、きちんと左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷との診断を受け、適切に治療を受けていれば、このように裁判で争うことはなかったでしょう。

交通事故で適切な賠償を受けるためには、事故当初に適切な診断を受け、適切な治療を受けておくことが極めて重要です。

本件は、「この事故以外に原告が左膝内側半月板損傷及び左膝蓋骨軟骨損傷を発症する原因となる具体的な出来事がない」ということで、当該傷病と事故との相当因果関係が認められましたが、仮に事故後に転倒して通院した、肉体労務の仕事に就いているなどの事情があったような場合、必ずしもこのような判決内容になったとは限らないのです。

しかし、医学的知識や交通事故賠償上の問題に関する知識は乏しい被害者の方にしてみれば、診断結果や治療は医師、治療機関の判断に委ねざるを得ないケースも多いことでしょう。

交通事故問題の実績多数なあずま綜合法律事務所では、事故直後から丁寧にアドバイスをさせていただいておりますので、交通事故で怪我をしたらお早めにご相談ください。

 

 

 

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2019年09月11日

14秒前には赤信号に変わっていた速度超過の被告乗用車に衝突され死亡した青信号に変わる1秒前に発進の原付自転車の過失を軽微として否認した事案

【京都地裁平成301126日判決】(自保2040120頁)

 

〔事案の概要〕

60歳男子会社経営の亡Aは、信号交差点を原付自転車を運転して赤信号で停止し、青信号に変わる1秒前に発進したところ、右方交差道路から赤信号で進入してきた被告運転の速度超過乗用車に衝突され、外傷性脳内出血等を負い、39日入院後に死亡した

 

〔判決の要旨〕

「Aにおいても、信号機の表示する信号に従わなければならず、赤信号の場合は停止位置を越えて進行してはならず、赤信号で発進し、本件交差点に進入した事実を指摘できる。しかしながら、全赤状態での、青信号に変わる1秒前の発進であり、信号の変わり目の見込み発進であって、本件交差点の形状や信号サイクルからすれば、比較的軽微な落ち度である。

これに対し、被告には、各過失があり、とりわけ14秒前には対面信号が赤信号に変わっていたというのであるから、被告の過失は極めて重大で、危険極まりない運転と言わざるを得ない」として、「Aの前記落ち度を考慮するのは適切ではなく、本件事案で過失相殺を認めることはできない」とA原付自転車の過失を否認した。

 

[コメント]

双方が赤信号の直進車である場合、通常、過失相殺されることになり、その過失割合は痛み分けの50:50になることも少なくありません。

しかし、本事案では、被告に赤信号違反のほか、著しい前方不注視、時速30キロメートルの速度超過の過失がある上に、14秒前には対面式信号が赤進行に変わっていたこと、一方、原告は全赤状態での信号の変わり目の見込み発進をしたもので、青信号に変わるわずか1秒前の発進であったことを比較考慮し、本事案で過失相殺を認めることはできないとして原告の過失を否認しました。

交通事故事案では、まれに双方青主張や双方赤主張により過失割合が争いになることがあります。

その場合、車載カメラがあればいいのですが、ない場合は刑事記録、事故現場付近の防犯カメラの映像、信号サイクル表を取り付けて双方の言い分の裏付けをとることになります。

本事案においても、防犯カメラの映像と信号サイクル表が過失割合の認定上採用されています。

 刑事記録や信号サイクル表は弁護士の職権で取り付けることができますから、事故の調査をしたい方は、専門の弁護士に相談するとよいでしょう

 

信号機のある交差点であっても、見込み発進するのは危険です。発進する前に、左右をよく確認し安全に注意して発進しましょう。

 

あずま綜合法律事務所では、双方青主張の事案で自賠責保険金を獲得するなど交通事故事案の実績が豊富です。交通事故問題でお悩みの方は、あずま綜合法律事務所にご相談ください。

 

 

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2019年08月22日

12級14号外貌醜状等併合12級後遺障害認定の17歳兼業主婦の逸失利益を家事労働に間接的な影響が生じていると67歳まで5%の労働能力喪失で認めた事案

【名古屋地裁平成31123日判決】(自保204371頁)

 

〔事案の概要〕

17歳兼業主婦の原告は、被告運転の乗用車後部座席に同乗中事故に遭い、自賠責1214号顔面神経麻痺及び顔面・頚部瘢痕による外貌醜状、同149号左下口唇知覚異常及び知覚鈍麻から併合12級後遺障害の認定を受けた。

 

〔判決の要旨〕

後遺障害逸失利益算定につき、「原告は現在専業主婦として家事及び育児に従事しているところ、原告の上記症状は家事労働に直接影響するものではない、原告は、口元や頸部の瘢痕をみられたくないとの思いからマスクを着用して生活するなど対人関係に不安を抱えており、専業主婦であっても買い物等での外出や他者との会話を全く避けることはできない以上、日常的に心理的な負担を感じざるを得ないという意味で、家事労働について間接的な影響は生じている」とし、「原告は、症状固定時に18歳の若年者であったことから、本件事故に遭わなければ相当程度幅広い就労可能性があったものと認められるところ…(省略)」、「原告には、本件事故による後遺障害の影響によって対人関係に消極的になり、接客業等への就労可能性が一定程度制限されているほか、現在従事している家事労働にも心理的負担を感じるという意味で間接的な影響が生じているということができるから、かかる後遺障害に基づく逸失利益の発生を認めるのが相当である」とし、49年間5%の労働能力喪失で認定した。

[コメント]

後遺障害12級の場合の労働能力喪失率は基準上14%とされていますが、本判決は、将来の就労可能性に対する影響の程度及び家事労働に対しては直接的な影響は生じていないことに照らし、原告の労働能力喪失率は5%と抑制的に認定しました。

顔に醜状障害を残した被害者の後遺障害逸失利益については、直接仕事や就労可能性に影響を与えるものでなく、労働能力を低下させるとは認められないとして否認する裁判例も多くみられますが、本判決は「間接的な就労可能性と家事労働への影響」も労働能力を低下させるものとして逸失利益を認めました。原告の障害の内容がメイク等で隠すことがでないものであったこと(口の歪み)、原告がまだ17歳と若く、現在は専業主婦とはいえ、今後就労する蓋然性が高いこと等が考慮された結果と思われます。

醜状障害を残した被害者の後遺障害逸失利益については、顔面醜状の程度・場所(髪やメイクで隠すことができるか)、職業、年齢(将来の転職可能性)等を総合的に判断して認定されることになると思われ、これらの事情をいかに詳細に立証できるかが重要となります。

交通事故により醜状障害を残したことでお悩みの方は、交通事故問題に強いあずま綜合法律事務所にご相談ください。

 

 

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