2019年07月18日

14歳女子中学生の胆のう摘出による自賠責13級認定の後遺障害逸失利益をセンサス男女全年齢平均を基礎に18歳から67歳まで6%の労働能力喪失で認めた事案

【金沢地裁平成3059日判決】(自保203850頁)

 

〔事案の概要〕

14歳女子中学生の原告は、県道を歩行横断中、右方から進行してきた被告運転の車両に衝突されて受傷し、胆のう全摘出により自賠責1311号腹部臓器機能障害認定を受けた。原告側は、「原告は、胆のう摘出により、胃腸の調子が良くなく、下痢を起こすことが多く、特に脂っこい食べ物の消化が困難となっているほか、疲れやすくなり、日常生活に支障が生じている。」ことから、「原告の労働能力の喪失率は9%を下らない。」と主張した。他方、被告側は、「胆のう摘出が消化機能に対して影響を及ぼすことはあり得るものの、労働能力への影響は一律ではなく、仮に当該影響があるとしても、その程度は限定的であるといえる」等ことから、「原告の後遺障害逸失利益は認められないか、仮に認められるとしても極めてわずかである。」と主張した。

 

〔判決の要旨〕

原告は、胆のう摘出により、胃腸の調子が良くなく、下痢を引き起こすことが多く、特に脂っこい食べ物の消化が困難となっているほか、疲れやすくなったこと等が認められる。そうすると、本件事故による後遺障害(胆のう摘出)によって、原告の日常生活に上記のとおりの支障が生じており、これによる労働能力の低下ないし喪失があるというべきであり、また、本件事故による原告の労働能力の喪失率を6%とする」として、センサス男女全年齢平均を基礎収入に18歳から67歳まで49年間6%の労働能力喪失で認めた。

 

[コメント]

交通事故で後遺障害を残した場合、基本的には自賠責保険支払基準(自動車損害賠償保障法施行令別表ⅠⅡ)が定める労働能力喪失率に応じて逸失利益が算定されることになります。

しかし、内臓に後遺障害を残した場合、運動機能に直結しないため、さほど労働能力が制限されることはないとして争いになるケースが多くあります。

訴訟になった場合、等級基準通りの喪失率が認定されることもありますが、等級基準をそのまま認定しない裁判例も多く見受けられるところです。

本判決の原告は、自賠責において胆のう摘出による後遺障害13級が認定されており、基準どおりであれば労働能力喪失率は9%となります。被告側は、胆のう摘出による労働能力への影響は限定的であるとして、逸失利益について争う姿勢を示しました。

これに対し、裁判所は、胆のう摘出による下痢の多さ、易疲労性を理由に労働能力の低下ないし喪失があることを認めたものの、基準より低い6%の労働能力喪失を認めました。

内臓に後遺障害を残した場合、その障害がどの程度労働能力に影響をするか、より詳細かつ具体的な立証が必要ですので、専門家に相談するとよいでしょう。

交通事故で傷害を負った場合は、一人で悩む前にあずま綜合法律事務所にご相談ください。

 

 

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2019年07月03日

自賠責非該当も22歳男子消防士の左膝神経症状は職務に影響があるとして14級9号後遺障害を認定した事案

【京都地裁平成301112日判決】

 

〔判決の要旨〕

自動二輪車に搭乗して交差点を直進中、先行被告乗用車が左折したため、急制動したが衝突して、左大腿部挫滅創等の傷害を負い、自賠責非該当も14級9号左膝を神経症状を残したと主張する22歳男子消防士の原告の事案につき、原告の症状固定後の症状は、「さほど強くはなく、かつ、常時自発痛があるわけではないものの、左膝に痛みが生じることがあると認められる。そして、原告が消防士として火災、急所、救急等の出動をしていることに照らすと、通常人の勤務と比較して肉体上の影響があることが職務に影響を及ぼしやすいといい得。そうすると、原告にほとんど常時疼痛が残存しているとまでは認め難いが、職務上の支障が生じることは否定できない」とし、「原告の述べる痛みについては、C整形外科において診断されているとおり、創傷によるものとして医学的に説明可能なもの」として、「左大腿挫滅創に伴う左膝創部の圧痛等の症状について、149号「局部に神経症状を残すもの」に該当する」と149号後遺障害を認定した。

 

【コメント】

自賠責においては、交通事故による後遺症のうち、「局部に神経症状を残すもの」については、149号と認定されることになります。

そして、「局部に神経症状を残すもの」とは、「医学的に説明可能な神経系統又は精神の障害を残す所見があるもの」をいい、「医学的に証明されないものであっても、受傷時の態様や治療の経過からその訴えが一応説明つくものであり、故意に誇張された訴えではないと判断されるもの」については、「局部に神経症状を残すもの」として149号に認定される可能性があります。

自賠責保険の後遺障害認定は労災保険の認定基準に準拠しているところ、労災の基準上、「通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」が14級とされており、「ほとんど常時疼痛を残すこと」は自賠責で149号を獲得する上で重要な要素となります。

本事案においても、22歳男子消防士の原告は、常時自発痛がなく、自賠責においては後遺障害非該当と認定されていました。しかし、京都地裁は「消防士」としての職務の特殊性、後遺症の職務への影響に鑑み、149号後遺障害を認定しました。

裁判所は、自賠責の判断に拘束されず独自の判断において後遺障害等級を認定することができますが、自賠責で認定された後遺障害等級を参考にするため、裁判でも同様の認定をする傾向にあります。

しかし、本判決は、自賠責の判断に縛られず、原告の職業や職務の内容、後遺症による職務への影響を考慮して149号後遺障害を認定し、柔軟な姿勢を示しました。

裁判をすれば、自賠責の後遺障害認定とは異なる判断を受けることができる可能性があるということですが、そのためには、必要な立証書類を整え、緻密な主張をすることが重要となります。

自賠責の後遺障害認定内容に納得できない、異議を申し立てたいという方は、交通事故問題に精通したあずま総合法律事務所にご相談ください。

 

 

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2019年05月21日

14歳女子の自賠責12級左下腿瘢痕が労働能力に影響はないと後遺障害逸失利益を否認し後遺障害慰謝料400万円を認めた事案

【東京地裁平成30914日判決】(自保203568頁)

〔事案の概要〕

14級女子中学生の原告は、歩道を歩行中、歩道を彫り上げた被告運転の貨物車に衝突、轢過され、骨盤骨折、両下腿デグロービング損傷等の傷害を負い、自賠責12級左下腿瘢痕の認定を受けた

〔判決の要旨〕

「本件事故による原告の左肩位の瘢痕は、大腿部から腓腹部までの広範囲に及ぶものであること、上記瘢痕の症状固定時及びその後の色や形状からすると、上記瘢痕は、丈の長くないスカート等を着用した場合、人目につくことがあるものということができる。また、本件事故による原告の右下腿の瘢痕は、膝上の部分のもので、その大きさも考慮すると、左下腿の瘢痕と同様に人目につくことがあるものということができるし、上唇の線状根は、その大きさ、形状からすると、コミュニケーションの際に、人目につくことがある」が、「左下腿及び右下腿の上記瘢痕は、その位置からすると、コミュニケーションの際に直ちに相手の視線に入るものとは言えないし、着用する衣服によっては必ずしも人目につくものとはいえない。また、原告が、本件事故当時、俳優やモデル等、仕事の性質上、下肢を露出することを要し、かつ、下肢を含む容姿が重視される職業に係る活動をしたり、オーディションを受けるなどそのような職業につくための準備活動をしていた様子はうかがわれない。これらの事情に照らすと、原告の性別、年齢を考慮しても、上記瘢痕が原告の労働能力に直接的な影響を及ぼすと認めることはできない。」、「原告の性別、年齢も考慮すると、醜状障害による精神的な影響は否定できないところ、このような事情については、慰謝料の算定において考慮する」として、後遺障害逸失利益を否認した。

そして、上記瘢痕、線状根は人目につくことがあるものであり、それらの瘢が目立たないような衣服を着用することを余儀なくされることがあると考えられること、原告は、症状固定時、16歳の高校2年生であったこと、その性別等を考慮すると、周囲の視線が気になるなどして、対人関係や対外的な活動に消極的になるなど、間接的に労働に影響を及ぼすおそれがある」として、「後遺障害慰謝料は、400万円と認める」とした。

 

[コメント]

醜状障害が労働能力に影響を与えるかについて争われた裁判例は多数あります。

同じ下肢の醜状障害であってもふくらはぎなど露出することの多い部位の醜状障害の場合は、就労に影響するとして逸失利益が認められやすく、スカートなどで隠せるといった露出可能性の低い部位の醜状障害の場合は逸失利益が否定されやすい傾向にあります。

また、被害者が就労前のこども・若年者の場合は、既に職業・対外的活動が決まっている場合よりも、より将来、醜状障害が職業の選択に与える影響が少なくないとして考慮される可能性が高いといえるでしょう。

個人的には、原告が職業選択前の高校生で、裁判所としても衣服の制約や、対人関係・対外的な活動の消極化による間接的な労働への影響を認定するのであれば、職業選択の自由の制限、醜状障害が将来就労に影響を及ぼす可能性を考慮して後遺障害逸失利益を認めてもよかったのではないかと思います。

この裁判例は、最終的に、慰謝料でバランスをとったものと考えられます。

 

 

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2019年04月28日

両耳にイヤホンを装着して音楽を聴きながらランニング中、被告車のクラクションにも気づかず、車道に大きく進入した原告に4割の過失を認めた事案

【さいたま地裁平成30914日判決】

 

〔事案の概要〕

男子アルバイト等の原告は、片側1車線道路路側帯を両耳にイヤホンを装着して音楽を聴きながらランニング中、車道に進入したところ、後方から直進進行してきた被告運転の乗用車に衝突され、外傷性頚椎ヘルニア、頚椎捻挫等の傷害を負い、3日入院、187日実通院し、握力低下、両手指のしびれ、後頚部痛から149号後遺障害を残したとして損害賠償を求める訴えを提起した。

原告側は、路側帯をランニングしていた原告が、路側帯上の電信柱を避けるために車道に若干進入した際、後方から直進進行してきた被告車両に跳ねられたというもので、車両側端の歩行者と四輪車の衝突事故であり、加えて、本件事故現場が住宅地であること、被告には、車道内に原告が進入したのを認識し、あるいはこれを看過して、漫然と20キロメートルを優に上回る速度で被告車両を走行させて、本件事故を惹起したという著しい過失があると考えられるから、原告に過失はなく、少なくともその過失が5%を超えることはない、と主張した。

〔判決の要旨〕

被告は、歩行者である原告の動静に違和感を覚え、また、クラクションに気づいていない様子であることも認識しながら、十分に徐行することなく、その側方を通過しようとし、結果、車道内に進入した原告を回避することが出来ず、被告車両を原告に衝突させたとして、被告に過失があると認定した。

他方、本件事故の態様は、通行するに十分な幅員を有する路側帯をランニングしていた原告が、両耳にイヤホンを装着して音楽を聴いていたため、被告車両のクラクションによる注意喚起に気づかず、被告車両が直近に至った時点で、後方を確認することなく車道内に大きく進入し、センターライン付近に至って被告車両と衝突したというものであって、原告にも相当な落ち度があり、被告の回避可能性は減退していたことを考慮し、本件事故における過失割合は、原告を40%、被告を60%と認めるのが相当である、とした。

 

[コメント]

   歩行者と四輪車との事故の場合、交通弱者である歩行者の過失が小さくなるというのが基本的な考え方です。

 本件のように歩車道の区別のある道路(歩道や通行に十分な幅員を有する路側帯のある道路)における事故の場合、

  歩行者が車道側端を歩行していた際に車両に衝突された場合の歩行者の過失は20%、

  歩行者が車道側端以外(道路の中央)を歩行していた際に車両に衝突された場合の過失は30%となります

(「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ№38)」。

   裁判所は、原告が「車道内に大きく進入し、センターライン付近に至って被告車両と衝突した」と認定しましたので、基本過失割合は30%となります(本件事故現場は住宅地とのことですので、上記過失割合から5%、原告の有利に修正がかかる可能性はあります)。

 

 ところが、裁判所は、本件事故における原告の過失は40%と認定しました。それはなぜでしょう。

「両耳にイヤホンを装着してクラクションによる注意喚起に気づかなかった」、「後方を確認しなかった」という事実を原告側の落ち度(著しい過失)と認定したからです

 以前、スマホを操作しながら自転車に乗り、女性に衝突して死亡させた事故があり、ながら運転により加害者になる危険性について大々的に報道されたことがありました。

 本判決からいえることは、加害者ではなく、被害者の場合でも、両耳にイヤホンをするなどして自分の世界に浸り通行上の注意を怠っていると過失と認定され得るということです。

 街に出るとイヤホンをたり、スマホを操作しながら通行している方を多くみかけますが、これは事故を誘発しかねない危険な行為です。

 事故防止のためにも、日頃から注意することを心がけましょう。

 

交通事故に関するお悩みは、経験豊富なあずま綜合法律事務所にご相談ください。

 

 

 

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2019年03月11日

医師の同意のない柔道整復師の骨折等に対する施術は必要性・相当性は認められないと本件事故との因果関係を否認した事案

【東京高裁平成30年7月18日判決】

 

〔事案の概要〕

訴外女子V(被害者)は、乗用車に同乗して直進中、左方から進入してきたY運転の乗用車に出合頭衝突され、右8肋骨骨折、腰椎捻挫等の傷害を負い、Vの施術をした柔道整復師のXが、VからYに対する施術費の損害賠償請求権の譲渡を受けたとしてYに2万4980円を求めるなどして訴えを提起した。1審裁判所は、Xの骨折等に対する施術は医師の同意なく必要性・違法性はないと否認し、Xの請求を棄却した。

 

〔判決要旨〕

X控訴の東京高裁は、1審同様にXの請求を棄却した。施術の必要性につき、「XがVの施術をした時には、医師による骨折の診断はされていなかったのみならず、かえって、医師は、Vを経過観察とした上で、痛みが増強するようであればCT検査で評価するとの治療方針を決定していたから、Xによる上記施術は、医師の治療方針に合わないものであった」とし、「Vが整形外科において骨折と診断されたのは、本件事故から2ヶ月が経過した後であるから、このことをもって、Vが本件事故時に骨折していたと直ちにいうこともできない」として、「上記施術は、その必要性・相当性に疑問があるといわざるを得ず、少なくとも、その費用が本件事故と相当因果関係のある損害に当たるとは認められない」と否認した。

 

〔コメント〕

事故が原因で支出を余儀なくされた治療費は全て相手方に請求できる、と思っていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。当然、被害者の方には、事故による怪我の治療に要した治療費を請求する権利があります。

ただし、事故による損害として認められるのは、「必要性・相当性があるもの」に限られます。事故が原因だからという理由で何でも損害賠償請求できるとすると、損害が拡大し、加害者に多大な負担を強いることになりかねないからです。治療費が損害として認められるのも、「必要かつ相当」な範囲ということになります。

柔道整復師法17条は、「柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当てをする場合は、この限りでない。」と規定しています。したがって、脱臼・骨折があるにもかかわらず、医師の同意なく柔道整復師の施術を受けた場合、その施術は「必要性・相当性は認められない」として、施術費の請求が認められない可能性があります。

  近年、整骨院・接骨院の過剰診療が社会問題となる中、施術の必要性・相当性を争う裁判が増え、医師の同意等がなく施術の必要性及び相当性が認められないとして施術と事故との因果関係を否認した裁判例が多く出ていますので、注意が必要です。

 

 

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