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44歳女子主張の労災9級認定脳脊髄液漏出症は厚労省研究班基準及びICHD-3基準を満たさない等から否認し、頭痛等の14級9号後遺障害を認定した事案
【広島高裁令和元年12月5日判決】(自保2055号1頁)
〔事案の概要〕
44歳兼業主婦のXは、片側1車線道路を普通乗用車を運転して走行中、スリップして対向車線から進入してきたY運転の普通乗用車に衝突され、頚椎捻挫、頭部打撲、両肩関節捻挫等の傷害を負い、78日入院、155日実通院し、頭痛、背部痛、頭痛の痺れ及び両上肢の痺れ等から自賠責14級9号後遺障害認定されるも、労災認定同様に脳脊髄液漏出症及び胸郭出口症候群から9級10号後遺障害(自賠責非該当)を残したとして既払金723万0984円を控除し、3426万2158円を求めて訴えを提起した。1審裁判所は、本件事故と脳脊髄液漏出症との因果関係を認め9級10号後遺障害認定したが、2審裁判所は1審判決を変更し、Xの脳脊髄液漏出症の発症を否認した。
〔判決の要旨〕
XのCTM画像については、平成23年研究班基準上、「確定」所見を満たすと認めるに足りず、仮に、第12胸椎/第1腰椎レベルの漏出が画像上穿刺部位からの漏出と連続しないとしても、これのみをもって、Xにつき本件事故により硬膜の欠損及び脳脊髄液の漏出があったと認めるに足りない。そして、被控訴人の頭痛がICHD-3所定の脳脊髄液性頭痛、特発性低頭蓋内圧性頭痛のいずれであるとも認められないこと、Xが本件事故後約1ヶ月経過する頃までの間に起立性頭痛があったことを認めるに足りないこと、被控訴人に対して実施された、脳脊髄液漏出症に対する治療である4回のブラッドパッチは、短期的にも長期的にも、想定される効果があったものと認めるに足りないことを総合勘案すると、Xが本件事故により硬膜の欠損及び脳脊髄液の漏出が生じ脳脊髄液漏出症を発症したとは認められないというべきである。
[コメント]
自賠責保険における後遺障害の等級認定実務は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うと定められており、この認定基準において「負傷又は疾病がなおったときに残存する当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる回復が困難と見込まれる精神的又は身体的なき損状態であって、その存在が医学的に認められ、労働能力のそう失を伴うもの」を後遺障害の対象とする、と規定されています。
そして、神経系統の機能の障害について、後遺障害等級第12級13号以上に該当する旨の認定をするためには、残存する症状が他覚的によって証明されること、具体的には、症状固定時に残存する自覚症状が、医学的な整合性の認められる画像所見及び神経学的所見等の他覚的所見に裏付けられることが必要とされます。
今回の事案では、自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見が乏しかったことが第14級9号と認定された(第12級13号以上の等級が認められなかった)最大の理由といえます。
労災保険では9級10号と認定されたのに・・・と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに、自賠責は労災の障害認定基準を準用していますが、自賠責と労災が認定する後遺障害等級が一致しないケースもあるのです。
理由としては、「後遺障害診断書等の提出書類が異なる」、「一部の障害について自賠責保険独自の基準を採用している」、「自賠責保険は労災保険と異なり書面のみの審査である」ということが考えられるでしょう。
労働中に怪我等を負った労働者の保護という労災保険の趣旨からすれば、「いかに労働能力を喪失したか」という観点からより労働者に有利な等級認定がなされるのかもしれません。
しかし、裁判では本事案のように、必ずしも労災の等級通りに認定されるとは限らず、あくまでも症状固定時に残存する自覚症状が、医学的な整合性の認められる画像所見及び神経学的所見等の他覚的所見に裏付けられるかが重要となります。
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