2017年07月31日

自転車を傘差し運転していた64歳女性に15%の過失を認めた事案~判例ニュース

 【京都地裁平成28年6月14日判決】(自保1983号124頁)

傘を差して自転車に搭乗する64歳女子原告と衝突まで気付かなかった83歳男子被告運転の乗用車の出合頭衝突事故につき、原告は、「見通しの悪い本件交差点を進行するに当たり、右手に傘を差したまま片手で自転車を運転した点、左方の被告車を発見したにもかかわらず、被告車が原告車を見て停止するものと軽信して進行したことについての過失がある。ただし、原告は、本件事故当時。64歳3か月の女性であり、本件事故前1日1000メートル泳ぐ等の健康体であったとはいえ、注意力・判断力が低下しがちな要保護性の高い存在であることも考慮する必要がある」として、「原告につき15%の過失相殺が行うのが相当である」と判示した。

 

[コメント]

自転車の傘差し運転は、道路交通法70条の安全運転義務違反となり、罰則(3月以下の懲役または5万円以下の罰金)の対象となります。

自転車で傘を差すなどして片手運転中、事故に遭った場合、「自転車の著しい過失」があったとして、基本的過失割合に概ね5~10%過失が上乗せされることになります。

雨が降っているときにしばしば見かける、傘を差しながら自転車に乗る人の姿。それ自体、大変危険な行為ですし、万が一事故に遭った場合に過失割合上不利に働き、賠償額が減額される可能性もあるので、絶対にやめていただきたいと思います。梅雨は明けましたが、是非ご注意ください。

 

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2017年06月28日

79歳女子の死亡逸失利益を夫介護で家事従事等から賃金センサス女性全年齢平均賃金を基礎に認定した事案~判例ニュース

 【前橋地裁平成28年6月17日判決】(自保1983号25頁)

夫を介護する79歳の家事従事者Aは、道路を歩行横断中、被告運転の乗用車に衝突して死亡した。裁判所は、Aの死亡逸失利益算定につき、Aは、「本件事故発生当時、大きな病気を患うことはなく、夫と同居して、1人で炊事、洗濯及び買い物等の家事に従事していたこと、このほかにも、Aは本件事故発生当時に認知症患者の夫の身の回りの世話をして夫を介護して、夫が経営する店を代わりに経営するなどして」いたこと等を理由に、賃金センサス女性学歴計前年例平均を基礎収入に生活費控除3割で死亡逸失利益を認定した。

 

 [コメント]

家事従事者(主婦)は、収入を得ているわけではない、つまり、事故による減収が生じないので逸失利益が認められないかというとそうではありません。家事労働を家政婦等に頼むとなると相当の支払いをしなければならないわけですから、家事労働は金銭的に評価しうるとして家事従事者の逸失利益も認められています。もっとも、具体的に従事する家事労働の内容によって個別にその金銭評価を行うことは困難であることから、裁判実務では、原則として、賃金センサス女性労働者の全年齢平均賃金を基礎とし、年齢、家族構成、身体状況、家事労働の内容に照らし、生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する家事労働を行う蓋然性があるといえない特別の事情が存在する場合には、年齢別平均を参照して適宜全年齢平均から減額する取り扱いがなされます。

逸失利益の対象となる家事労働といえるためには、「他人のための」家事労働であることが必要であり、1人暮らしで自分のためだけに家事労働を行っている場合には逸失利益は認められません。たとえば、高齢の夫婦2人暮らしの場合には、それほど家事労働は多くないと考えられることから、全年齢平均賃金よりも下回る年齢別平均賃金を基にするなど、一定の減額がなされるのが一般的です。

しかし、今回のケースでは、被害者Aは、高齢の夫と2人暮らしであったものの、認知症の夫の介護や夫が経営する店を代わりに経営していたという事情があり、家事労働等の負担が大きかったことから、原則通り全年齢平均賃金が採用されました。

 

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2017年05月26日

7年間に5回の被害事故を受ける原告の症状は前事故と重複等から本件事故での受傷を否認して請求棄却した事案~判例ニュース

 【名古屋地裁平成27年12月18日判決】(自保1968号100頁)

64歳女子原告は、横断歩道を自転車で横断しようとして交差点に進入したところ、同交差点に左折進入しようとした被告車の側面に衝突し、頚部捻挫等の傷害を負い、約5か月通院で症状固定した。原告は、過去7年間に5件の自転車事故で内3件の賠償金を受領していた。

裁判所は、「本件事故が軽微な事故であること、原告の愁訴に基づいて治療がなされたなどの治療経過、真摯な治療態度がうかがえず、殊更に受傷の言動、さらには、前提事実のとおり原告には過去に複数の交通事故歴があって賠償金の請求をした経験があることからすると、(省略)原告が本件事故により受傷したと認めることはできない。」として請求を棄却した。

 

 [コメント]

今回の受傷部位と同一の頚部を過去の交通事故で負傷していたことを理由に請求棄却されたというよりも、本件事故は、原告車の前輪タイヤと被告車の左側面が低速度で衝突した事故であり、両車に目立った損傷も残らない程の軽微な事故であった等の事故の態様から、原告が本件事故で頚部捻挫を負ったとは考え難いとして請求棄却されたものと考えられます。

 

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2017年04月23日

衝撃がさほど大きくない事故で左肩関節打撲の傷害を負った50歳男子に12級6号の左肩関節機能障害を認めた事案~判例ニュース

 【横浜地裁平成27年12月17日判決】(自保1968号127頁)

乗用車を運転、停止中にクリープ現象で前進した被告乗用車に追突された50歳男子原告の受傷につき、「原告車両及び被告車両の損傷状況からすると、本件事故による衝撃の程度は、必ずしも大きくなかったと考えられるが、クリープ現象による接触程度の軽微なものであったとはいえず、シートベルトが左肩に食い込んで局所的に外力が及んだことからすると、左肩腱板損傷の受傷機転として合理的といい得る」とし、「原告の左肩腱板損傷及びこれに伴う左肩関節の機能障害は、本件事故によるものと認められる」と認定した。

 

 [コメント]

この事案では、被告は、主に次の点を理由に、原告の左肩腱板損傷・左肩関節機能障害は本件事故によるものではないと主張しました。

本件事故は、クリープ現象によって前進した被告車両が原告車両に追突したにすぎず、衝撃の程度は軽微であったといえるから、原告の左肩腱板損傷が生じたとは考え難い。

左肩の痛みが本件事故直後にはなく、その後徐々に憎悪していることからすると、左肩腱板損傷は外傷によるものではない。

原告の症状は、慢性的な五十肩によるものと考えられ、原告の左肩腱板損傷は既往のものである。

 

裁判所は、上記被告の主張に対し、次のように認定し、原告の左肩腱板損傷及び左肩関節の機能障害は本件事故によるものと認められると判断しました。

について

即座にブレーキをかけてクリープ現象を止めることができたはずであるにもかかわらず、漫然と追突に至ったというのは不自然であり、クリープ現象で前進して追突したに過ぎず衝撃は軽微であったとの被告の主張は採用し難い

について

初診時の診察が診察時間の終了間際に急いで行われたことがうかがわれ、その際の診療記録に左肩の痛みについて主訴の記載がないからといって本件事故直後に左肩の痛みがなかったとも認め難い

について

左肩の症状について、短期間のうちに一定の改善がみられたことは、これが加齢及び業務に起因する慢性的な既往症であったこととは整合しにくい

 

交通事故による後遺障害が争われる事案においては、上記のように、事故態様・事故(衝撃)の大きさ、症状発現時期の遅れ、既往症が争点となることがよくあります。裁判においては、双方の主張が相反することもすくなくありません。原告・被告は、自らの主張を理論武装させ、証拠等を用いて立証していくことになります。答えを導く明確な証拠がない場合には、原告・被告の主張・立証のどちらに重きをおくかによって結論が異なる可能性があり、裁判官によって異なる判断がなされることもあり得ます。

本件においては、比較的原告に有利な認定がなされているという印象を受けますが、既に自賠責の事前認定において、後遺障害12級6号に該当するとの判断がなされていたことも少なからず裁判所の判断に影響を与えたのかもしれません。

 

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2017年03月27日

ランドクルーザー損傷で初度登録4年余の評価損を否認した事案~判例ニュース

 【横浜地裁平成27年11月26日判決】(自保1967号148頁)

原告車の評価損認定につき、「原告車の初度登録は平成20年2月であり、本件事故はそれから4年7か月後の事故であること、原告車の走行距離は平成23年2月10日の時点で6万0300㎞であり、平成25年3月7日の時点で8万6684㎞であることが認められる。以上の事情から、原告の修理は骨格部分に及んでいるものの、評価損は認められない。」と否認した。

 

[コメント]

評価損とは、修理によっても残存した機能障害や外観の損傷、事故歴による減価(商品価値の下落)をいいます。現在のところ、評価損の取り扱いは明確に定まっておらず、基本的には保険会社も評価損を認めない対応をとっているところが多いため、争いになりやすい損害といえます。

裁判例の中には、初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位・程度、車種等を考慮し、評価損が発生したか否かを判断しているものが多くみられます。通常、評価損が認められる目安としては、初度登録から3年程度、走行距離で4万キロ程度以内であることとされていますが、高級外国車、国産人気車種であれば、比較的評価損が認められやすい傾向にあり、初度登録から5年、走行距離で6万キロ程度が目安と考えてよいでしょう。

 

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