2017年06月28日

79歳女子の死亡逸失利益を夫介護で家事従事等から賃金センサス女性全年齢平均賃金を基礎に認定した事案~判例ニュース

 【前橋地裁平成28年6月17日判決】(自保1983号25頁)

夫を介護する79歳の家事従事者Aは、道路を歩行横断中、被告運転の乗用車に衝突して死亡した。裁判所は、Aの死亡逸失利益算定につき、Aは、「本件事故発生当時、大きな病気を患うことはなく、夫と同居して、1人で炊事、洗濯及び買い物等の家事に従事していたこと、このほかにも、Aは本件事故発生当時に認知症患者の夫の身の回りの世話をして夫を介護して、夫が経営する店を代わりに経営するなどして」いたこと等を理由に、賃金センサス女性学歴計前年例平均を基礎収入に生活費控除3割で死亡逸失利益を認定した。

 

 [コメント]

家事従事者(主婦)は、収入を得ているわけではない、つまり、事故による減収が生じないので逸失利益が認められないかというとそうではありません。家事労働を家政婦等に頼むとなると相当の支払いをしなければならないわけですから、家事労働は金銭的に評価しうるとして家事従事者の逸失利益も認められています。もっとも、具体的に従事する家事労働の内容によって個別にその金銭評価を行うことは困難であることから、裁判実務では、原則として、賃金センサス女性労働者の全年齢平均賃金を基礎とし、年齢、家族構成、身体状況、家事労働の内容に照らし、生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する家事労働を行う蓋然性があるといえない特別の事情が存在する場合には、年齢別平均を参照して適宜全年齢平均から減額する取り扱いがなされます。

逸失利益の対象となる家事労働といえるためには、「他人のための」家事労働であることが必要であり、1人暮らしで自分のためだけに家事労働を行っている場合には逸失利益は認められません。たとえば、高齢の夫婦2人暮らしの場合には、それほど家事労働は多くないと考えられることから、全年齢平均賃金よりも下回る年齢別平均賃金を基にするなど、一定の減額がなされるのが一般的です。

しかし、今回のケースでは、被害者Aは、高齢の夫と2人暮らしであったものの、認知症の夫の介護や夫が経営する店を代わりに経営していたという事情があり、家事労働等の負担が大きかったことから、原則通り全年齢平均賃金が採用されました。

 

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