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49歳女子の自賠責14級認定の頚部痛等を他覚的所見が認められると12級後遺障害を認定した事案
【福岡地裁令和元年9月17日判決】(自保2060号54頁)
〔事案の概要〕
49歳女子同居の母を介護する家事従事者の原告は、路上で普通乗用車を運転して赤信号停止中、被告運転の普通乗用車に追突され、頚椎捻挫及び腰椎捻挫の傷害を負い、102日実通院し、自賠責14級9号頚部痛及び頭痛等、同14級9号腰痛等の併合14級後遺障害認定も、頚から肩にかけての痛み及び手までのしびれ等が残存し12級13号後遺障害を残したとして、既払金約195万円を控除し約1200万円を求めて訴えを提起した。
〔判決の要旨〕
「本件神経症状のうち頚部痛及び上腕から手のしびれについては、C5/6及びC6/7の椎間板突出との他覚的所見があり、一定期間での寛解が具体的に見込まれるといえないため、自賠法施行令別表第二12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に当たるものと認めるのが相当であり、これは、本件事故との因果関係のあるものと認められる」と12級13号を認定した。
[コメント]
自賠責(損保料率算出機構)において、むち打ち損傷で後遺障害12級13号の認定を受けるためには、「局部に頑固な神経症状を残すもの」であることが必要です。
どのような症状があれば「頑固」な神経症状にあたるのかという明確な基準は存在しませんが、実務上12級13号に認定されるためには、その症状が「医学的に証明されること」すなわち、医学的根拠に基づいた他覚的所見によって証明されることが条件とされています。
他覚的所見として重要なのは、レントゲン検査、CT検査、MRI検査などの画像検査などの画像所見で、当該画像所見と矛盾しない神経学的所見の有無も考慮されます。
むち打ち損傷で12級13号が認定されるケースは非常に少なく、ハードルが高いのが現状です。
当事務所でも多数のむち打ち損傷案件を扱ってきましたが、自賠責に後遺障害申請をして12級13号が認められたのは「神経根の圧排所見」が認められた場合のみで「椎間板の突出」という他覚的所見のみで12級13号が認定されたケースはありません。
自賠責においては、画像上「脊髄・神経根の圧排所見」が認められ、その「圧排部分に対応した神経学的異常所見が得られている」ことが重視されているものと思われます。
本判決は、圧排所見はみられてないものの、症状固定時において頚部痛等の神経症状が残存しており、MRI検査の結果、C6/7及びC5/6において「椎間板突出との他覚的所見」が認められるところ、本件MRI検査で椎間板突出が認められる頚椎に対応する神経根と、本件神経症状のうち頚部痛及び両腕から手の知覚障害(しびれ)との間には対応関係があること等を理由に12級13号を認定しました。
本件事故は、時速10㎞程度の追突事故であったことから被告は、本件事故の態様から椎間板突出が生じ得るとは考え難いなどと主張しましたが、本判決は「本件事故によって原告に加わった力がごく軽微であり、およそ椎間板突出に影響を及ぼし得ないほどの事故態様であったことを認めるに足りる的確な証拠はない」と判断したことも特筆したい点です。
本判決のように、裁判をすれば自賠責において認定された等級よりも高い等級が認められる場合があります。
自賠責保険の認定内容に納得ができないときは、ぜひ交通事故問題に強いあずま綜合法律事務所にご相談ください。
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弁護士法人 あずま綜合法律事務所
http://www.jiko-fukuoka.jp/
住所:福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号
上ノ橋ビル3階
TEL:092-711-1826
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乗用車に衝突され死亡した直腸がん等ステージⅣの75歳男子の平均余命年数を3年と認定し2年間40%の生活費控除で稼働逸失利益を認め4割の素因減額を適用した事例
【大阪地裁令和元年9月4日判決】(自保2058号24頁)
〔事案の概要〕
直腸がん等に罹患しステージⅣの75歳男子会社代表取締役の亡Aは、高速道路上を67歳原告Xが同乗し、この原告Wが運転する普通乗用車に同乗して走行中、後方から走行してきた飲酒して無免許の被告Yが運転し、被告Uが同乗する、被告Z所有の普通乗用車に衝突され、両側急性硬膜下血腫等の傷害を負い、21日後に死亡したため、相続人の原告らは約5500万円等を求めて訴えを提起した。
〔判決の要旨〕
①「平成28年における75歳男性の平均余命は12年であるところ、Aは、本件事故時点において、直腸がんが肺及び肝臓に転移した状態(ステージⅣ)であり、ステージⅣまで至った直腸がんを含む大腸がん患者の3年生存率が、実測生存率で28.5%、相対生存率で30.3%であることからすると、Aが、本件事故後も12年にわたり生存していた高度の蓋然性があると認めることはできないものの、本件事故がなくても1年や2年で死亡したことを裏付けるに足りる的確な証拠もなく、3年生存率が約3割であり、本件事故時点ではその病状は安定していたことからすれば、Aの余命は少なくとも3年はあったものと推認される」として平均余命年数3年と認定した。
②Aの素因減額につき、「Aが、本件事故当時、直腸がんの肝臓及び肺への転移やこれに伴う肝機能及び肺機能の低下に加え、心房細胞により血栓ができやすく抗凝固剤であるワーフェリンの服用が必要な状態でなければ、Aは、適切な治療を受ければ平成28年9月上旬に死亡することはなかったものと推認される」等の理由から、4割の素因減額を適用した。
[コメント]
交通事故以外に後遺症や死亡に影響したと思われるような既往症が被害者にあった場合、逸失利益の算定や素因減額が問題となることがあります。
素因減額とは、被害者が事故前から有していた既往症や、身体的特徴、心因的な要因といった「素因」が、事故による損害に寄与し、損害を拡大してしまうといった場合に、被害者の素因を斟酌して損害賠償額を減額することをいいます。
既往症が後遺症や死亡にどの程度影響したか、素因減額をすべきか、素因減額をすることが相当として、減額を行う割合をどの程度にすべきかの判断は極めて難しいものです。医学的見解、過去の裁判例を踏まえた上で、個別具体的な事情を検討する必要があります。
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44歳女子主張の労災9級認定脳脊髄液漏出症は厚労省研究班基準及びICHD-3基準を満たさない等から否認し、頭痛等の14級9号後遺障害を認定した事案
【広島高裁令和元年12月5日判決】(自保2055号1頁)
〔事案の概要〕
44歳兼業主婦のXは、片側1車線道路を普通乗用車を運転して走行中、スリップして対向車線から進入してきたY運転の普通乗用車に衝突され、頚椎捻挫、頭部打撲、両肩関節捻挫等の傷害を負い、78日入院、155日実通院し、頭痛、背部痛、頭痛の痺れ及び両上肢の痺れ等から自賠責14級9号後遺障害認定されるも、労災認定同様に脳脊髄液漏出症及び胸郭出口症候群から9級10号後遺障害(自賠責非該当)を残したとして既払金723万0984円を控除し、3426万2158円を求めて訴えを提起した。1審裁判所は、本件事故と脳脊髄液漏出症との因果関係を認め9級10号後遺障害認定したが、2審裁判所は1審判決を変更し、Xの脳脊髄液漏出症の発症を否認した。
〔判決の要旨〕
XのCTM画像については、平成23年研究班基準上、「確定」所見を満たすと認めるに足りず、仮に、第12胸椎/第1腰椎レベルの漏出が画像上穿刺部位からの漏出と連続しないとしても、これのみをもって、Xにつき本件事故により硬膜の欠損及び脳脊髄液の漏出があったと認めるに足りない。そして、被控訴人の頭痛がICHD-3所定の脳脊髄液性頭痛、特発性低頭蓋内圧性頭痛のいずれであるとも認められないこと、Xが本件事故後約1ヶ月経過する頃までの間に起立性頭痛があったことを認めるに足りないこと、被控訴人に対して実施された、脳脊髄液漏出症に対する治療である4回のブラッドパッチは、短期的にも長期的にも、想定される効果があったものと認めるに足りないことを総合勘案すると、Xが本件事故により硬膜の欠損及び脳脊髄液の漏出が生じ脳脊髄液漏出症を発症したとは認められないというべきである。
[コメント]
自賠責保険における後遺障害の等級認定実務は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うと定められており、この認定基準において「負傷又は疾病がなおったときに残存する当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる回復が困難と見込まれる精神的又は身体的なき損状態であって、その存在が医学的に認められ、労働能力のそう失を伴うもの」を後遺障害の対象とする、と規定されています。
そして、神経系統の機能の障害について、後遺障害等級第12級13号以上に該当する旨の認定をするためには、残存する症状が他覚的によって証明されること、具体的には、症状固定時に残存する自覚症状が、医学的な整合性の認められる画像所見及び神経学的所見等の他覚的所見に裏付けられることが必要とされます。
今回の事案では、自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見が乏しかったことが第14級9号と認定された(第12級13号以上の等級が認められなかった)最大の理由といえます。
労災保険では9級10号と認定されたのに・・・と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに、自賠責は労災の障害認定基準を準用していますが、自賠責と労災が認定する後遺障害等級が一致しないケースもあるのです。
理由としては、「後遺障害診断書等の提出書類が異なる」、「一部の障害について自賠責保険独自の基準を採用している」、「自賠責保険は労災保険と異なり書面のみの審査である」ということが考えられるでしょう。
労働中に怪我等を負った労働者の保護という労災保険の趣旨からすれば、「いかに労働能力を喪失したか」という観点からより労働者に有利な等級認定がなされるのかもしれません。
しかし、裁判では本事案のように、必ずしも労災の等級通りに認定されるとは限らず、あくまでも症状固定時に残存する自覚症状が、医学的な整合性の認められる画像所見及び神経学的所見等の他覚的所見に裏付けられるかが重要となります。
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軽微追突された52歳男子の接骨院等での施術の必要性は認められないとし事故との因果関係のある治療期間は3ヶ月と認定した事案
【東京高裁令和元年8月21日判決】(自保2053号89頁)
〔事案の概要〕
52歳男子運転手のXは、平成28年5月23日午前8時12分頃、さいたま市内の信号交差点で普通貨物車を運転して赤信号停止中、後方に停止していたW運転、Y会社所有の普通貨物車がクリープ現象により前進して追突され、頚椎捻挫、右肩部挫傷及び腰部挫傷等の傷害を負い、220日間通院したとして、既払い金120万円を控除し83万2204円を求めて訴えを提起した。
1審裁判所は、Xの事故と因果関係のある治療期間を5か月間と認め、接骨院の治療費約25万円を認定した。
〔判決の要旨〕
普通貨物車を運転して信号停止中、Y普通貨物車に追突され、頚椎捻挫等の傷害を負い、220日間通院したとする52歳男子Xの受傷につき、Xの主治医であるD医師は、Xについて接骨院等での施術を受けることを妨げることまでしなかったものの、接骨院等での施術を必要であると考えていたと認める証拠はないのであるから、接骨院での施術が傷害の治癒のため必要で、有効であったと認めることはできないと否認した。また、本件事故によりXが受けた衝撃が軽微なものにとどまること、初診時に他覚的な所見が認められていないこと、Xが本件事故の後仕事を休むことなく、トラックによる運送や積み下ろしの仕事を継続していること、外傷性頚部症候群の症例784例の分析研究によれば、平均治癒期間が73.5日で中央値が49日程度とされることを併せ考慮すれば、Xの傷害について、本件事故と相当因果関係のある治療期間は3ヶ月とするのが相当であると判断した。
[コメント]
今まで多くの交通事故事案をみてきましたが、保険会社とトラブルとなるケースでよくあるのが、「事故の大きさに比して、通院が長い」という事案です。
自賠責保険は被害者救済のための制度であるため、比較的緩やかに因果関係が認められる傾向にあり、クリープ現象により軽微追突された事案においても後遺障害14級9号が認定されたケースもあります。
しかし、裁判では、様々な事情を総合的に考慮して施術の必要性、有効性、施術内容の合理性、施術期間・施術費の相当性等が判断されることになります。
本件では、接骨院での治療につき医師の同意がないこと、被害者に他覚的所見が認められていないこと、被害者が事故後も肉体労働に就いていたこと等が考慮され、実際の治療期間は7ヶ月超であったのに対し、本件事故と相当因果関係のある治療期間は3ヶ月と認定されました。
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傷害を裏付ける明確な他覚的所見はなく車両の損傷状況も重大なものとは認められない等からX主張の傷害を否認し請求を棄却した事案
【東京高裁平成31年3月13日判決】(自保2051号54頁)
〔事案の概要〕
男子会社員のXは、普通乗用車を運転して交差点手前で停止中、左方の駐車場から後退してきたY運転の普通乗用車に衝突され、頚椎捻挫、右肩関節挫傷及び腰部挫傷の傷害を負い115日実通院し、人身損害を残したとして、既払金約15万円を控除し約212万円を求めて訴えを提起した。
〔判決の要旨〕
Xが本件事故によって頚椎捻挫等の傷害を負ったとは認められず、その請求は棄却されるべきものと判断する。その理由は次のとおりである。
① カルテ上、理学的所見又は神経学的所見の記載はほとんどなく、Xが訴える自覚症状をそのまま記載したとみられるもの(項部痛、左項部痛、右肩痛、右上腕痛、腰痛)がほとんどであることが認められ、本件事故によってXが頚椎捻挫、右肩関節挫傷又は腰部挫傷の傷害を負ったことを裏付ける明確な他覚的所見はない。
② Xは、本件事故による衝突等に関し、「突然左後方から衝撃があり、Xの身体は右に飛ばされ、反動で戻った際、ヘッドレストに頭部をぶつけた」等と述べるが、後退してきたY車の右後部角が停止していたX車の左側面部に衝突したという本件事故の態様からすると、Xの上記供述内容は力学的に不合理である。また、本件事故によるX車及びY車の損傷の状況を検討しても、本件事故について、必然的にX車の運転者の受傷をもらたす程に重大なものであったとまでは認められないことを併せ考えれば、本件事故によってXが頚椎捻挫、右肩関節挫傷又は腰部挫傷の傷害を負ったとは認められない。
③ XがC整骨院で右肩の治療を受けていたというのであれば、C整骨院に約半年間、90回通院していながら、通院証明書及び施術証明書・施術費明細書に1度も右肩に係る傷病名が記載されていないのは不自然であり、本件事故後の症状に関するXの供述は採用できない。
[コメント]
交通事故の被害者は、加害者に対し、事故で被った損害の賠償を請求することができます。
もっとも、被害者の言い分通りに全ての損害の賠償が認められるわけではありません。
交通事故による損害として賠償を受けることができるのは、事故との因果関係が認められ、必要かつ相当な範囲の損害に限られます。
人身事故の裁判では、当該事故の態様が本当に被害者の傷害をもたらす程に重大であったか、という点が最重視される傾向にあると思われます。
「痛み」は、目に見えるものでなく主観的なものであるため本人の自覚症状の訴えのみを採用するのが難しい一方、事故の態様や車両の損傷からはある程度客観的に衝撃の大きさや力学的作用を判断することが可能であるからでしょう。
とはいえ、自覚症状が全く裁判で考慮されないわけではありません。自覚症状と受傷機序に矛盾はないか、診断書・カルテの記載との整合性はあるか、事故後の自覚症状の訴えに一貫性はあるかなどを総合的に判断し、自覚症状の訴えに信用性が認められれば証拠の一つとして採用され得るのです。
今回の事案では、被害者の自覚症状と受傷機序とに矛盾があり、また、訴える症状が整骨院の施術証明書・施術費明細書に記載がなかったことから、被害者の供述に信用性が認められなかったことが、請求が棄却されることになった大きな要因となったものと考えられます。
人身事故被害にあった方は、ぜひ交通事故案件の経験豊富なあずま綜合法律事務所にご相談ください。
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弁護士法人 あずま綜合法律事務所
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