2016年07月18日

入院直後の病室内独歩等から両膝半月板損傷との因果関係を否認した事案~判例ニュース

 【東京地裁平成27年12月18日判決】(自保1966号105頁)

 

被告運転の乗用車に追突され、頚椎捻挫、両膝半月板損傷等の傷害を負い、約1年4ヶ月入通院した原告の損害賠償請求につき、裁判所は、原告の両膝半月板損傷と本件事故との因果関係を否認した事案。裁判所が事故と両膝半月板損傷と本件事故との因果関係を否認した理由として挙げたものを整理すると次のとおりです。

 

①レントゲン検査で骨折は認められなかった

②事故日は平成20年11月2日であるところ、同月7日に初めて両膝の痛みを訴えている

③トイレ、入浴、歩行、階段等のADL(日常生活動作)全て「自立」と評価されている

④医師や看護師の前以外では、すたすたと独歩していた

⑤B病院の医師は、原告に対し、現在の膝の痛みが本件事故を原因であると診断書に書けない旨の見解を伝えた上で、診断書において半月板損傷の病名は記載されなかった

⑥運転席部分に損傷は見られず、現に、原告は、シートベルトをしていたため本件事故により臀部が少し浮き上がる程度であったと供述している

 

コメント: 原告は、本件事故後から両膝痛等の症状を述べていたこと、転院先のC病院の医師が作成した診断書に傷病名として右膝半月板損傷と記載されていることを理由に、治療費等の損害の支払いを求めましたが、裁判所は上記の事情を理由に、両膝半月板損傷と本件事故との因果関係を否認し、半月板損傷に要した治療費等を損害として認めませんでした。傷病と事故との因果関係が認められるかについては、受傷の原因である事故態様、症状が現れた時期、医師の診断・検査結果、症状の推移状況等、様々な事情を総合考慮して判断されることになります。たとえ、その症状が事故後に生じたものであり、また、医師が傷病名として診断書に記載した上で治療を行った場合であっても、全ての傷病が事故によるものとして損害賠償の対象となるとは限りません。裁判においては、当事者双方の主張内容や提出された様々な証拠が精査されます。証拠の一つであるカルテに詐病を疑わせる記載があったとして、因果関係を否定されるケースもあるのです。

 

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2016年06月19日

高次脳機能障害を負い自賠責で7級と認定された52歳男子原告につき、12級相当と認定した事案~判例ニュース

 【京都地裁平成27年3月25日判決】(自保1948号1頁)

 

原告は事故で高次脳機能障害を負い、自賠責保険損害保険料率算出機構において、後遺障害等級第7級と認定されていたが、本件事故から約2週間後の神経心理学的検査の結果は高次脳機能障害を否定するものであったこと、原告が復職後2年間問題なく稼働したり、1人でバイクに乗ったり、目的をもって外出するなど、注意障害や記憶障害による社会生活上の支障は限られたものと解されること等を理由に、「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の傷害を残すもの」として、後遺障害等級12級と認めるのが相当とされた事案。

 

コメント:自賠責保険で後遺障害等級が認定されたら、その等級に応じてきちんと損害賠償が支払われるものだと思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。しかし、裁判になった場合、裁判官は、自賠責保険の判断に拘束されず、証拠と自身の自由な心証に基づき判断を下すことができるのです。裁判をした結果、自賠責の認定よりも等級が上がることもあれば、本件のように下がる場合もありますので、訴訟提起に踏み切る前に十分な検討をする必要があります。

 

参考:後遺障害等級7級4号

「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」

 

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2016年05月22日

2年間就労準備等見られない47歳男子について、就労の蓋然性を認定するのは困難として逸失利益を否認した事案~判例ニュース

 【大阪地裁平成27年3月26日判決】(自保1948号144頁)

 

自賠責14級10号認定を受け、5年間5%の逸失利益を求めた47歳男子原告(家電修理工としての稼働歴あり)につき、稼働していないに等しい期間が2年間も継続していたこと、今後の就労の予定も立っていないこと、就労に向けた資格取得の準備も進んでいないこと等を理由に、「原告が近い将来に、ある程度まとまった収入を得られる仕事に従事できた蓋然性を認定するのは困難である」として、逸失利益を否認した事案。

 

コメント: 「逸失利益」とは、事故がなかったら被害者が得られたであろう利益をいい、基本的には、基礎収入額を基に算定されます。失業者、無職者は、事故当時収入を得ていないものの、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるものについては一定の逸失利益が認められるとされています。本件においては、労働能力及び労働意欲がまったくないとまではいうことはできないと認められたものの、2年間の失業期間と近い将来の就労する見込みの乏しさを考慮され逸失利益は認められませんでした。

 

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2016年04月06日

保険会社が加齢性変性により30%の素因減額を主張したのに対し、当事務所が医証を取り付けて反論した結果、素因減額の主張を撤回させた事案~ご依頼者の声

 

 

 

「ご夫婦で車に搭乗中(夫運転、妻同乗)に交通事故に遭って頚椎捻挫

と腰椎捻挫を負い、夫婦共に頚部痛、腰部痛等の後遺症に苦しんでおら

れました。既に相手方保険会社より傷害部分の損害額の提示があり、ご

自身で示談交渉進めておられた段階で当事務所が受任。調査した結果、ご依頼者の声2(東 富士男)

ご夫婦共に後遺障害が認定される可能性があったため、当事務所が被害

者請求を行ったところ、いずれも14級9号の後遺障害を獲得すること

ができました。相手方保険会社に後遺障害部分を含めた損害賠償請求を

行ったところ、相手方は事故前からあった加齢による身体の変化が損害

を拡大させたとして30%の素因減額(損害の発生・拡大について被害

者の素因が関係している場合には、その素因を斟酌して損害額を減額す

ること)を主張。そこで、当事務所は主治医の意見書等を取り付けて、

本件ご夫婦の加齢性変性は素因減額すべき事情にあたらないことを立証

し、相手方保険会社の素因減額の主張を退けました。最終的に、夫につ

いては、相手方保険会社の当初の提示額より約95万円の増額、妻につ

いては約300万円の増額という形で解決を図ることができました。」

 

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2016年03月27日

ネットオークション事業を自営の男性の休業損害を算定するにあたり、賃金センサスの年齢別平均賃金を基礎とした事案~判例ニュース

 【京都地裁平成27年4月22日判決】(自保1951号141頁)

 

ネットオークション事業を営む29歳男子原告の休業損害につき、原告は、「本件事故による左膝打撲により、在庫管理等に支障を来したことが窺える」等から、「上記事情による収入は明らかでないものの、本件事故による受傷内容及び治療経過等に鑑み、平成23年賃金センサス男性高卒29歳の年収額を基礎とし、1か月の限度で休業損害と認める」と1か月分の休業損害を認定した事案。

 

コメント: 自営業者(事業所得者)の休業損害は、「現実の収入減があった場合に認められる」とされていますが、自営業者の方が事故による「現実の収入減」を立証することは容易ではありません。とくに、本件は、原告(被害者)の自営業としての従事期間が短く、基礎収入の根拠となる相当な資料(確定申告書、納税証明書等)を提出することができなかったうえ、ネットオークション事業という収入が不確定な性質上、現実の収入減を明らかにすることは極めて困難なケースでした。そこで、裁判所は、原告の学歴・年齢の男性の平均賃金(賃金センサス)を基礎に休業損害を算定しました。このように、現実の収入減や所得額の立証が困難な場合には、平均賃金を基礎に算定した一定の休業損害が認められる可能性がありますので、保険会社に休業損害の支払いを拒否された場合でも交渉、裁判を検討する余地はあります。もっとも、休業期間については、受傷内容や治療経過等を考慮して判断されるため、治療期間全てが休業期間として認められるとは限りません。本件では、症状固定日までの治療に6か月を要しましたが、休業期間として認められたのは1か月にとどまりました。

 

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