2016年03月13日

交通事故外傷で外貌醜状を残した男性について逸失利益の発生を認めた事案~判例ニュース

 【さいたま地裁平成27年4月16日判決】(自保1950号84頁)

 

交通事故により口唇付近に線状痕が残存し、外貌醜状障害として9級16号に該当するとの認定を受けた41歳(症状固定時)の男性(原告)について、①原告の後遺障害である外貌醜状は、口唇部に残存している5センチメートル以上の線状痕であり、人目につくものであること、②原告の現在の職業が自動車運転手(貨物の搬出,搬入,運送)であるところ、原告の後遺障害である外貌醜状によって、初対面に近い顧客との折衝に消極的になっていること、③社内の評判が落ちて将来の昇進や転職に影響したりする可能性が否定できないことを指摘した上で、「男性においても外貌醜状をもって後遺障害とする制度が確立された以上、職業のいかんを問わず、外貌醜状があるときは,原則として当該後遺障害等級に相応する労働能力の喪失があるというのが相当」との判断を示し、労働能力喪失率35パーセントを前提として逸失利益を認めた。

 

コメント: 交通事故で人目に触れる部位に傷跡を残し、一定の要件を満たした場合には、外貌醜状障害として後遺障害等級に認定されます。

2011年までは、男性の著しい醜状障害は、女性の7級よりも低い12級と定められるなど、男女間の取り扱いに差がありました。後遺障害等級上の男女差は、2011年の労災保険施行規則「障害等級票」の改正により撤廃されましたが、男性の外貌醜状障害事案は、女性に比べるとまだまだ逸失利益が否定される傾向にあります。これは、男性に傷跡があったとしても、女性ほど対人関係や仕事に影響が生じないとの考えに基づくものと考えられます。 しかし、男性であっても外貌醜状があることで業務の幅が限定されたり、昇進・転職上不利益を被ったりすることは十分にあり得ることであり、また、対人関係の構築に消極的になる可能性も否定できません。

本裁判例は、男性の外貌醜状であっても、職業を問わず(接客業等に限定せず)逸失利益を認めた時点で意義が大きいといえます。

 

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2015年11月19日

交通事故から4カ月後に発症した「右下肢の麻痺」の症状につき、交通事故との因果関係を否認、請求を棄却した事案~判例ニュース

 【名古屋地裁平成27年3月25日判決】(自保1949号129頁)

 

原告は、乗用車を運転停止中に追突され、腰椎椎間板ヘルニア等から歩行障害を残したとする事案につき、「右下肢の麻痺に関する訴えは、本件事故から約4ヶ月を経過した平成22年12月に歩行障害や右下肢の筋力低下が認められ、約5ヶ月経過した平成23年1月に歩行障害及び右足関節以下完全麻痺が生じ、約15ヶ月経過した平成23年11月に左下肢に筋力低下、右下肢の感覚が消失したというのであり、本件事故から発症までに相当の時間が経緯している上、次第に症状が悪化して拡大している。通常、外傷による症状は、受傷後が最も強く、次第に軽快するか不変であるという経過をたどるところ、原告の上記症状の経過はこれと異なるものであり、本件事故による外傷から生じた症状とは考えがたい」などとして、原告の腰椎椎間板ヘルニアと本件事故との相当因果関係を否認し原告の請求を棄却した。

 

コメント:自賠責においても裁判所においても、後遺障害の認定上、「通常、外傷による症状は、受傷後が最も強く、次第に軽快するか不変であるという経過をたどる」という点は大変重視されており、本件のように、①事故からしばらくして症状が発現した場合、②時間の経過とともに症状が重くなっていった場合は、症状と事故との因果関係が否定される傾向にあります。

被害者からしてみれば、事故前はそのような症状はなく、事故をきっかけに発症したにもかかわらず、事故と関係ないとして治療費等の損害が認められないのは到底納得できないことでしょう。交通事故解決の難しさは、「どこからどこまでが適正な損害か」を線引きする難しさにあります。被害者側としても、やみくもに損害・被害を訴えれば何でも認められるわけではないことを理解する必要があります。

「ご自身にとって適正な損害とは?」と疑問を抱いたら、お早めに弁護士に相談ください。

 

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2015年11月11日

歩道の車道側を走行しなかった自転車の過失を15%と認めた事案~判例ニュース

 【名古屋地裁平成27年3月30日判決】(自保1948号70頁)

 

路外駐車場から右側の安全確認後に左折しようとした被告乗用車と歩道左から進行してきた原告自転車との衝突につき、「自転車は歩道を通行する場合、歩道の中央から車道寄りを走行しなければならないとされており、原告はこの規定に反した走行をしていたといえ、路外から歩道に進入する被告車両からは、原告のかかる違反によりその発見が容易ではなくなるのであって本件事故との関係でこの点を原告の過失として考慮せざるを得ない」として、歩道右側走行の原告自転車に15%の過失を認めた事案。

 

コメント:車道又は交通の状況からみてやむを得ない場合等は、自転車であっても歩道を走行することが認められます。この場合、自転車はどちらの向きで通行しても構いません。つまり、歩道を走行する場合は右側走行も許されています。ただし、道路交通法上、歩道を走行する場合は、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならないと定められています(道路交通法第17条第4項及び18条第1項)。意外と知られていない点だと思いますが、自転車で走行する際はご注意ください。

 

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2015年09月01日

自賠責で12級7号と認定された原告の後遺障害は8級7号に該当すると認定した事例~判例ニュース

 【大阪地裁平成27210日判決】(自保194755頁)

 

自転車搭乗中の衝突で転倒の52歳の女子は靭帯損傷の重篤な受傷をしていたとして、自賠責127号の認定を87号と認定した事例。

 

(補足)

12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

8級7号:1関節3大関節中の1関節の用を廃したもの

 

「用を廃したもの」と認定されるためには、

① 関節の強直又はこれに近い状態にあるもの
② 神経麻痺等により自動運動不能又はこれに近い状態にあるもの
③ 前十字靱帯、後十字靱帯の断裂による動揺関節で、労働に支障があり、

  常時固定装具の装着を絶対に必要とする程度のもの

のいずれかの要件を満たす必要があります。

 

コメント:自賠責保険においては、1度目の申請時も異議申立て時も原告の後遺障害は12級7号に該当すると判断されました。しかし、原告が症状固定診断時より右膝の動揺性があったこと、常時硬性補装具を必要とする状況であったことの立証を尽くした結果、裁判所は8級7号と認定しました。裁判所においては、自賠責保険の結果が重視される傾向にありますが、原告側が後遺障害について緻密に立証を重ねた結果、自賠責保険と異なる認定を勝ち取ることができたのです。

 

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2015年08月22日

加害者側の不誠実な態度を慰謝料増額事由として考慮した事例~判例ニュース

 【福岡地裁八女支部平成24年3月15日判決】(判時2161号57頁)

 

事故当時7歳6か月弱であった原告の飛び出しによる交通事故事案において、被告側(加害者側)が、事故から3年経った後の示談交渉の際等にも被告(加害運転者の過失を認めていながら、その後突如これを争うようになった被告側の対応の変更は不誠実であるとして、慰謝料算定の際に考慮した判例。

控訴審の福岡高裁も加害者側が示談・訴訟の当初運転者の過失を認めながら、その後これを争うに至ったのは不誠実な態度であるとして、慰謝料を増額した福岡地裁八女支部の判決を相当と判断しました福岡高裁平成24年7月31日判決)。

 

コメント:一般に、慰謝料増額のハードルは高く、加害者側の不誠実な態度を慰謝料増額事由として考慮した貴重なケースといえます。

 

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