2019年01月10日

歩行中に被告普通貨物車に衝突され約8年11ヶ月後の症状固定を主張する24歳男子の中心性頸髄損傷等は約1年2ヶ月後に症状固定とし消滅時効完成により請求を棄却した事案

【東京地裁平成30年6月6日判決】(自保2028号 87頁)

 

[事案の概要]

24歳男子の原告は、平成20年1月7日、横断歩道を青信号で歩行横断中、被告運転の普通貨物車に衝突され、中心性頸髄損傷等の傷害を負い、2日入院、19日実通院し、平成21年2月26日症状固定の診断を受けるも、平成28年11月21日の症状固定を主張し、12級13号後遺障害(自賠責非該当)を残したとして、既払金を控除し内金1000万円を求めて訴えを提起した。

原告は、平成28年11月21日を症状固定とする主張に沿うC病院整形外科の医師が同年12月19日にした後遺障害診断を証拠とした。

 

[判決の要旨]

「原告は、平成21年2月26日にB大学病院脳神経外科に通院してから平成28年11月21日にC病院整形外科に通院するまで、本件残存症状の治療ないし経過観察等のために医療機関に通院したことはないことが認められるから、C病院整形外科の医師が平成28年12月19日にした後遺障害診断は、7年以上にも及ぶ通院空白期間というべき上記期間中の原告の本件残存症状の経過ないし推移等を客観的に把握した上でなされたとは認めがたい。」、「C病院整形外科の医師は、原告の残存症状の症状固定日が平成21年2月26日ではなく、平成28年11月21日であると診断した医学的理由ないし根拠を明らかにしていない。」として、平成28年11月21日の後遺障害診断を否認し、後遺障害診断日である平成21年4月2日を消滅時効の起算点として、時効完成により請求を棄却した。

 

[コメント]:後遺障害による損害は、基本的には症状固定日から3年で消滅時効にかかるとされています。

「症状固定」とは、簡単に言うと、「これ以上適切な治療をしても症状の改善が見込めない状態に至ったこと」を意味します。そして、症状固定に至ったかどうかを判断することができるのは、医師です。

しかし、医師が判断した症状固定日が必ずしも常に裁判で妥当と判断されるとは限りません。あくまでも、症状固定日は、「医師の適切な医学的判断」によるべきなのです。

本判決は、たとえ医師が後遺障害診断をした場合であっても、その判断が医学的理由ないし根拠に基づいたものでなければ否認され得るということを明らかにしたものといえます。

 

 

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2018年12月26日

トンネル内でハザードランプを転倒して渋滞減速中に追突された原告乗用車に過失はないと被告乗用車の一方的過失を認めた事案

【横浜地裁平成30年5月31日判決】(自保2027号 120頁)

 

[事案の概要]

男子役員車両運転手の原告は、片側2車線のトンネル内道路で第2車線を乗用車を運転して渋滞で減速したところ、被告運転の乗用車に追突され、頚椎捻挫、右肩腱板損傷等の傷害を負い、自賠責149号後遺障害認定を受け、損害の賠償を求めて訴えを提起した。原告は、「当初からハザードランプを点灯させていた」旨供述する一方、被告は、「原告車両のハザードランプが点灯していなかった」と供述するなど原被告間で供述の不一致があり、事故当時原告がハザードランプを点灯していたかが争点となった。

 

[判決の要旨]

原告は、当初からハザードランプを点灯させていた旨供述しており、供述の変遷はなく、内容にも不自然な点はないからその供述は信用することができ、本件事故当時、原告車両がハザードランプを点灯させていたことが認められる。被告は、原告車両のハザードランプが点灯していなかった記憶がはっきりしている理由として、ハザードランプが点灯していればもっと早めに止まると供述するにとどまり、被告が原告車両から目を離していた時間があることからすれば、ハザードランプの点灯を見過ごした可能性は否定できず、被告の前記供述は信用できない」とし、「原告には、株式会社Jにおける役員車運転の勤務歴が16年ほどあり、運転技術、マナーについて高い水準を勤務先から要求されていたこと、当日は、担当している役員が退任する特別な日であったことから、より細心の注意を払って運転していたことが認められ、原告車両が急減速した旨の被告の供述もその客観的資料による裏付けがなく、信用することができない」として、「原告が急減速したことを認めるに足りる証拠はなく、原告車両はハザードランプを点灯させていたと認められ、原告車両の停止位置が異常で不適切であったともいえないのであるから、(省略)原告には本件事故の予見可能性も回避可能性もないといわざるをえず、被告の一方的過失によるものであると認められる」として、原告乗用車の過失を否認した。

 

[コメント]:減速車に後続車が追突した場合、減速車側にハザードランプを点灯しなかった、不必要・不確実なアクセル操作を行ったなどの落ち度があり、そのような落ち度がなければ衝突を回避することができた可能性が認められる場合には、追突された減速車にも一定の過失が認められる可能性があります。

本件においては、被告側が原告にハザードランプを点灯しなかった過失があると主張しましたが、それを裏付ける客観的資料がなかったため、当事者の供述の信用性の有無が問題となりました。供述の信用性を判断する場合、①その供述が客観的証拠と矛盾しないか、②その供述の内容が合理的(不自然な点はないか)か、③供述の変遷がないかなどが総合的に考慮されることになります。

本判決においては、原告の供述の変遷がなく、内容にも不自然な点がないことのほか、原告の長年の運転手としての職歴、運転技術、マナーが原告の過失を否認するポイントとなったものと思われます。日頃から、運転マナーや安全運転を心がけておくことが大事ですね。

また、事故当事者間で事故態様、過失割合について争いとなることがよくあります。たとえ自身に落ち度がなくても、相手方が事実に反することを主張してきた場合、客観的資料がなければ自らに過失はないと立証するのは困難です。自己防衛として、ドライブレコーダーを設置しておくことも有用です。

 

 

 

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2018年11月19日

ドリフト走行から暴走乗用車が集団登校中の小学生らの列に衝突し、非接触のXらに非器質性精神障害の発症を認めた事案

【京都地裁平成30年3月28日判決】(自保2025号86頁)

[事案の概要]

 11歳男子小学生のXは、午前8時頃、信号のない丁字路交差点を弟、他の児童らと集団登校中、ドリフト走行に失敗して制御不能になり、暴走した被告運転の乗用車が歩道上のXら小学生の列に衝突(衝突された児童は外傷性クモ膜下出血等受傷)した。Xらは非接触も左膝打撲傷、左足関節打撲傷、左膝足関節皮膚欠損、左手指打撲傷等の傷害を負い、その後、急性ストレス反応、PTSDの状態へ移行して症状固定まで約40箇月通院した。

 

裁判所は、「Xの本件事故後の状況、診療経過および本件事故の態様による精神的苦痛の程度(高速の自動車が飛び込んでくるという怖い体験をした上、同行者が血を流して倒れているなどの惨状を目の当たりにした)を踏まえれば、Xは、本件事故により、非器質性精神障害を発症したものと認める」とした。

 

[コメント]

非器質的精神障害」とは、脳組織に物理的な損傷がないが異常な精神状態が発生していることをいいます。代表的なものとしては、PTSDうつ病などが挙げられます。

交通事故後、PTSDやうつ病などの非器質的精神障害と診断されたとしても、それだけで、交通事故による「後遺障害」として、損害賠償の対象となるわけではありません。

後遺障害としての損害が認められるためには、事故と症状の因果関係が認められることを前提に、厚労省が通達した労災の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」に該当する必要があります。

因果関係が認められるかは、事故状況、受傷内容、障害の発現時期、専門医の受診時期、他の要因の有無等を総合的に考慮して判断されることになります。

今回の事案は、非接触事故(X自身は被告車に衝突されていない)という事故状況で、傷害内容も重度のものではありませんでしたが、裁判所は、「Xに事故直後から食欲減退、睡眠障害、夜尿等があり継続的にカウンセリングを受けたこと等に加え、高速の自動車が飛び込んでくるという怖い体験をした上、同行者が血を流して倒れているなどの惨状を目の当たりにした」という事情を考慮し、本件事故と非器質的精神障害との因果関係を認めました。

 

非器質的精神障害が後遺障害として認定されるためには、上記のとおり、「因果関係が認められること」、「障害等級認定基準に該当すること」が必要です。また、専門医で1年以上適切な治療を受けることも重要となってきます。

このように、自賠責や裁判所に非器質的精神障害を後遺障害として認めてもらうには、いくつもの条件をクリアする必要がありますので、PTSDやうつ病で適切な賠償を受けたいと思うのであれば、専門知識をもった弁護士に相談されることをおすすめします。

あずま綜合法律事務所では、非器質的精神障害に関する後遺障害申請のサポートも親身に行っておりますので、是非お早めにご相談ください。

 

 

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2018年10月11日

右膝関節機能障害(12級)を残した60歳有職主婦の休業損害を家事労働90~50%の稼働で認定した事案

【神戸地裁平成28年6月15日判決】(自保1984号59頁)

2年間の間に5回の入院を経て自賠責併合12級右膝関節機能障害等を残す60歳有職主婦の休業損害を算定するにあたり、その家事労働につき、「入院日数(160日)は100%の労働制限を認める」とし、その後の通院期間74日は90%の労働制限を、その後の通院期間104日間は70%の労働制限を、さらにその後の331日間は50%の労働制限を認めるのが相当であると評価して、賃金センサス女性学歴計年齢別平均賃金を基礎収入に休業損害を認定した。

[コメント]

一般に、休業損害は、「収入日額×休業日数」という計算方法で算出します。

主婦の場合、現実の収入がないため、休業損害がないと思われがちですが、労働の対価の対象となる家事労働を行っているということで主婦の休業損害も認められており、「収入日額は」、平均賃金(賃金センサス)を基準に決められます。

また、主婦の場合、休業・欠勤というものが存在しないため、「休業日数」についても問題となりがちです。判例は、主婦の休業日数について、「受傷のため、家事労働に従事できなかった期間につき認められる」(最判昭和5078日)としていますが、実際には、入院日数や通院の実日数を基礎に休業損害を算定することになります。しかし、例えばむち打ちを負った主婦につき、「収入日額×通院実日数」で求めた満額を休業損害として請求すると、相手方の保険会社から「通院したとしても100%家事ができないわけではないから減額すべきだ」と反論される可能性が高くなります。

本判決は、事故日から症状固定日までの間にどの程度家事労働が制約されていたかを考慮し、段階的に休業損害を算定する方法(逓減方式)を採用しました。この方法によれば、傷害の内容・部位・程度、症状経過、治療経過、後遺障害の内容・程度、家事労働の内容等に照らして、どのくらいの期間にどのくらいの家事労働の制約があったかを認定することになるため、より具体的かつ説得的に休業損害を主張できるといえます。

主婦は、会社員等と異なり、現実の減収を立証することができないため、相手方との交渉・裁判においては、いかに事故による怪我で家事労働を制約された損害を被ったかを説得的に主張・立証するかが重要となります。是非、専門家である弁護士にご相談ください。

 

 

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2018年09月18日

追突された原告貨物車のリヤードフレームは事故以前からすでに損傷が生じ交換の必要性も生じていたと本件事故による損害を否認した事案~判例ニュース

【東京地裁平成28年8月24日判決】(自保1983号174頁)

原告会社所有の中型貨物車は、被告運転の普通乗用車に追突され、リヤードフレーム等が損傷したとして、修理費・点検費用等を求めて訴えを提起した。

裁判所は、追突された原告貨物車のリヤードフレーム等の損傷が本件事故のみにより生じたと認めるのは困難とし、本件事故以前から既に損傷が生じ、その交換の必要性も生じていたとして、本件事故による損害を否認した。

 

[コメント]

当事務所が扱った交通事故案件でも、まれに、事故とは関係ない損傷を交通事故による物損として請求されることがありました。

当事務所では、少しでも相手方の請求額に疑問を感じたら、車両の損傷箇所を確認したり、専門の調査機関に鑑定を依頼したりするなどの対応を行っています。

たとえば、当方バイク、相手方普通乗用車の事故において、相手方の修理見積書に記載された損傷箇所があまりに広範囲であったことから、調査会社を介してバイクと普通乗用車の損傷箇所とを照合したところ、損傷箇所高さが一致しなかったため、本件事故のよる損害ではないと支払いを拒むことができたケースがあります。

このように、民間の交通事故調査会社に調査を依頼したり、専門の交通事故鑑定人により高度な調査・鑑定を依頼したりする場合もあります。

物損の場合は保険会社の担当者にお任せ、という方も少なくないかと思いますが、相手方や保険会社の提示を鵜呑みにすることなく、きちんと損害の内容を確認した上で示談に応じるようにしましょう。ご自身での判断が難しい場合は、専門家である弁護士にご相談ください。

 

 

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