2019年03月11日

医師の同意のない柔道整復師の骨折等に対する施術は必要性・相当性は認められないと本件事故との因果関係を否認した事案

【東京高裁平成30年7月18日判決】

 

〔事案の概要〕

訴外女子V(被害者)は、乗用車に同乗して直進中、左方から進入してきたY運転の乗用車に出合頭衝突され、右8肋骨骨折、腰椎捻挫等の傷害を負い、Vの施術をした柔道整復師のXが、VからYに対する施術費の損害賠償請求権の譲渡を受けたとしてYに2万4980円を求めるなどして訴えを提起した。1審裁判所は、Xの骨折等に対する施術は医師の同意なく必要性・違法性はないと否認し、Xの請求を棄却した。

 

〔判決要旨〕

X控訴の東京高裁は、1審同様にXの請求を棄却した。施術の必要性につき、「XがVの施術をした時には、医師による骨折の診断はされていなかったのみならず、かえって、医師は、Vを経過観察とした上で、痛みが増強するようであればCT検査で評価するとの治療方針を決定していたから、Xによる上記施術は、医師の治療方針に合わないものであった」とし、「Vが整形外科において骨折と診断されたのは、本件事故から2ヶ月が経過した後であるから、このことをもって、Vが本件事故時に骨折していたと直ちにいうこともできない」として、「上記施術は、その必要性・相当性に疑問があるといわざるを得ず、少なくとも、その費用が本件事故と相当因果関係のある損害に当たるとは認められない」と否認した。

 

〔コメント〕

事故が原因で支出を余儀なくされた治療費は全て相手方に請求できる、と思っていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。当然、被害者の方には、事故による怪我の治療に要した治療費を請求する権利があります。

ただし、事故による損害として認められるのは、「必要性・相当性があるもの」に限られます。事故が原因だからという理由で何でも損害賠償請求できるとすると、損害が拡大し、加害者に多大な負担を強いることになりかねないからです。治療費が損害として認められるのも、「必要かつ相当」な範囲ということになります。

柔道整復師法17条は、「柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当てをする場合は、この限りでない。」と規定しています。したがって、脱臼・骨折があるにもかかわらず、医師の同意なく柔道整復師の施術を受けた場合、その施術は「必要性・相当性は認められない」として、施術費の請求が認められない可能性があります。

  近年、整骨院・接骨院の過剰診療が社会問題となる中、施術の必要性・相当性を争う裁判が増え、医師の同意等がなく施術の必要性及び相当性が認められないとして施術と事故との因果関係を否認した裁判例が多く出ていますので、注意が必要です。

 

 

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